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サステナブル・ストーリー/
ナガセヴィータのWebマガジン
11story
2025.12.19
「おいしい」「美しい」は国境を越える世界に伝えたい「WAGASHI」の心

写真提供:出雲・福泉堂 土江 徹氏
時代を超えて親しまれる老舗和菓子店

お話を伺ったのは、1877年(明治10年)創業、東京・日本橋の老舗和菓子店「日月堂」の職人で、「選・和菓子職」優秀和菓子職の認定者、森まゆみさん。
女性の和菓子職人がまだまだ少なかった20数年前にこの世界に入り、いくつかの店で修行を積み技術を磨いてきました。「日月堂」に勤めてからは約15年になり、製造と商品開発を担当。業務のかたわら、尊敬する師匠や国内外多数の職人仲間とともに、和菓子文化の魅力を広く伝える活動を続けています。
「日月堂」のある日本橋は、歴史ある名店の集まるエリアで、海外からの観光客らが老舗めぐりを楽しむ姿も多く見られます。
「うちの店も海外からのお客さまは多いですよ。海外からの観光客向けにはアニメで知られるどら焼きが定番ですが、今の一番人気は、甘酸っぱいお餅で杏餡と生クリームを包んだ「あんず生大福」。海外の方にもなじみやすい味で、食べ歩きにもちょうどいいボリューム感が受けているようです」と、森さんは話します。

SNS時代の人々の心をつかむ「煉切(ねりきり)」
海外からの多数の旅行客が日本各地をにぎわせ、日本に居住する海外出身の方もますます増えている今、日本国外において和菓子はどのように受け入れられているのでしょうか。
「日本文化に興味のある方は欧米にもアジア圏にも多く、和菓子への関心も高いと感じますね。
抹茶フレーバーは昔から人気がありますし、最近はフランスなどを中心に、大福や求肥といった『もちもち』の食感がブームです。脂質の少ないヘルシーなスイーツという点でも評価されています。
それに加え、今特に注目を集めているのが、『菓銘をもつ生菓子(煉切・こなし)』として登録無形文化財にもなっている『煉切(ねりきり)』。日本らしい季節の表現に惹かれる人は多いですし、なにより見た目が美しく、SNS映えしますからね。『#nerikiri』などでInstagramを見てみると、海外からの発信もたくさんありますよ」と、森さんは昨今の動向について語ります。
日本国内でも今、煉切をはじめとした和菓子作りの体験教室がとても人気。講習を受けて教室を開く人も増えていますが、海外、特にアジア圏でもまさに同様の動きがあるようです。
2025年1月には、職人仲間がタイのバンコクに煉切作りを教えに行くというので、森さんもお手伝いに同行してきたそう。
「受講者さんは現地の富裕層の女性がメインで、多くの方が集まり盛況でしたよ。後日、『家で作りたいけど材料はどれを買えばいいの』とLINEしてきた方もいて、熱意を感じました」と話し、森さん自身も現地での交流を楽しんできたといいます。
ただ、ブームになることで、職人の立場としては少し懸念もあるといいます。
「和菓子を楽しむ人が増えるのはもちろんうれしいことなんですが、一方で、SNSに上がっている煉切の中には、素材や造形にアレンジの入ったものも多く、これが日本の伝統的な和菓子として広まってしまうことには若干のジレンマがあります。
和菓子は日本人の生活に根付いてきた、節句やお花見といった季節の行事と切り離せないものなので、そうした文化まで一体的に伝えられるようにしたいですね。
とはいえ、どんな形でも裾野が広がるのはよいこと。その中から、もっと本格的に学びたいと思う方も増えてくるはずですから」。
実際、日本の製菓学校には、伝統的な和菓子の技術を学びにやってくる留学生も多いとのこと。日本で学び、日本の店で修行して、自国で和菓子のお店を開いている人もいるそうです。

日本の四季と文化を映し出す和菓子「煉切(ねりきり)」とは
「煉切」は白餡(しろあん)に求肥(ぎゅうひ)や山芋などを加えて練り上げた「煉切餡(ねりきりあん)」を使って作られる和菓子です。「上生菓子(じょうなまがし)」の代表格で、その魅力は「見た目の美しさ」と「文化的な深み」にあります。
色彩と造形の美しさ
四季折々の情景を表現した美しい見た目は、煉切の大きな魅力です。
モチーフ: 季節の草花や風景など、日本の自然や風物詩を繊細に表現します。
色と形: 比較的自由に造形・着色ができる煉切餡の特性を活かし、優美な色彩と精巧な形に仕上げられます。
技:生地の表面にすじをつける三角棒など数々の専用の道具を用い、職人ならではの高度な技によって、精緻な細工が生み出されます。
文化的価値
煉切には、日本の美意識やおもてなしの心が凝縮されています。
菓銘(かめい):一つひとつのお菓子には、その形や季節感、短歌や俳句などの情景に由来する、趣ある名前(菓銘)が付けられます。和歌に由来する菓銘の代表例として「東風(こち)」や「竜田」が知られています。
茶道との繋がり:お茶席の趣を深め、季節感を伝える大切な役割を担ってきました。
まさに「味わう芸術」と呼ぶにふさわしい、文化的な価値をもつ伝統菓子といえるでしょう。

フランスで、日本文化の魅力を再認識
国内の業界団体や製菓学校などにおいても、和菓子文化を海外へ広める活動が継続的におこなわれています。
海外活動における代表的な存在は、愛知県安城市「両口屋菓匠」顧問 清水利仲氏で、10数年前よりヨーロッパでワークショップなどを実施。2019年に文化庁文化交流使に任命され、文化庁の依頼を受けてフランス・ドイツ・スペインで和菓子の魅力を伝えるイベントをおこなうことになりました。
そこに帯同したのが、清水氏がリーダーを務める「優秀和菓子職会」(全国和菓子協会が認定する「選・和菓子職」の優秀和菓子職の有志による会)の会員たち。森さんもその一員として、同年7月、フランスでの活動に参加しました。
フランスでは、パリで煉切作りのワークショップや講演、ストラスブールでは日本国総領事館で実演などをおこなったそうです。

「もともとフランスには日本文化に親しむ土壌がありますが、行ってみると熱量の高さは想像以上のものでしたね。
日本人の四季に対する豊かな感性や、手仕事の細やかさに魅力を感じている人が多いようで、煉切の意匠や菓銘についての説明を熱心に聞いてくださるし、実演するとわーっと感嘆の声を上げてくださって、こちらもうれしくなります。フランスにもマジパン細工など近しいものがあるからか、道具など細かな点にも関心をもってくださるのが印象的でした」と、現地の感想を語ります。
文化の継承のために、できることを少しずつ
国内外問わず、今の和菓子の人気を支えている層の多くは女性です。
国内の女性の和菓子職人も、森さんがこの道に入った当初に比べて、ずいぶん増えているそう。製菓学校で和菓子を専攻する学生も、今は女性が多くを占めるといいます。
「私が駆け出しのころはまだまだ男性中心の業界で、数少ない女性職人たちは、いろんな場面でハードルの高さを感じてきたように思います。
それでも、早くから性別の分け隔てなくお弟子さんを受け入れていた千葉県市川市『菓匠 京山』の佐々木勝先生をはじめ、理解ある上の方々の存在もあって、ここ10年ほどで女性職人を取り巻く環境は少しずつ整えられてきました。
以前は女性だからという理由で役割を限定される状況も多かったのですが、女性職人の数が増えるにつれ、よい意味で特別視されなくなり、性別関係なくフラットに活躍の場が与えられるようになってきました。業界を代表する研究団体でも、今年から女性が会長になったんですよ。
和菓子文化を世界に広げていくためには、まず日本国内できちんと技術・文化が継承され続けなくてはいけません。和菓子業界も人手不足の時代ですから、継承していくためには女性の活躍が不可欠です。
私も、例えば勉強会などで若い女性の職人さんを見かけたら声を掛けて、困っていることがないか聞いたり、女性のお弟子さんをはじめて入れるお店があれば、例えば『作業衣は透けない色の方が女性には助かるかも』などとさりげなく伝えてみたりと、自分にできることを地道にやっています。
本当に草の根からの小さな行動ですけど、周りの職人仲間たちと声を掛けあって少しでもよくしていくことで、脈々と受け継がれてきた和菓子文化を未来につないでいけたらなと思っています」。
伝統の世界に活かされる機能性糖質
和菓子の世界とナガセヴィータのトレハロース(製品名:トレハ®)とは、以前より深い関わりがあります。トレハ®の保水性・低甘味性といったさまざまな機能を和菓子作りに存分に活用できるよう、1995年の発売開始以来、経験豊富な多数の和菓子職人たちと協働でレシピ開発を進めてきました。
森さんも長年、ナガセヴィータと一緒に、伝統を大切にしながら海外の方や若い世代にも親しまれるような、新しい和菓子のレシピ開発に取り組んでくださっています。
「トレハ®によっておいしさを長く保てるようになったことに加え、商品の品質を落とすことなく冷凍保存ができるようになったことは、業界にとって大きな変化でした。計画的に作って置いておけるようになり、フードロスの大幅な低減はもちろん、効率化によって職人の働く環境の改善にもつながっているんですよ。
これからは、高齢者の方が安心して食べられる和菓子の開発にも取り組んでみたいので、そこでもトレハ®の優れた機能を上手に活かしていきたいですね」と、森さんは笑顔で語ります。
当社も引き続き、業界を支える方々と手を取り合い、日本の誇る和菓子文化の継承・発展を後押ししていきます。
日月堂・森まゆみ様
- ●和菓子の魅力と技能を国外に発信し、日本文化と伝統技術の国際的な理解と交流の促進に貢献
- ●女性職人の活躍を支える草の根の取り組みにより、多様性を尊重した持続可能な業界づくりに貢献
- ●機能性糖質などを活用して伝統技術を進化させ、フードロス削減や労働環境の改善といった現代的な課題解決に貢献









