Sustainable Stories
サステナブル・ストーリー/
ナガセヴィータのWebマガジン
08story
2024.03.05
日本伝統の藍の文化を今に活かす心も身体も癒される「藍治場(あいじば)」づくり
「ジャパンブルー」と呼ばれ、世界中の人の心を惹きつける「藍」。昔の人は、藍は染料としてだけでなく、毒消しや鎮静、傷の治癒にも役立つことを、経験的に知っていました。伝統的な藍の産地・徳島で調剤薬局を営む三谷芳広さんは、先人の知恵に倣い、藍を食用など幅広い方法で暮らしに取り入れ、心身の健康に役立てる取り組みをおこなっています。
食用藍を広め、藍を取り入れた暮らしを提案
阿波国・徳島県の吉野川流域は、江戸時代より藍の一大産地として栄え、今もなお日本を代表する藍の生産地としての地位を誇ります。
藍染めの衣服は見た目の美しさだけでなく、虫を寄せつけない、傷の化膿を防ぐ、臭いを抑えるといったさまざまな利点があるとされ、室町時代には鎧の下に着る肌着や、野良着にも重宝されていたそうです。また阿波の藍商人は行商の際、懐に藍をしのばせ、旅先でお腹を下したときに食していたといわれ、「藍商人は病知らず」との言葉も伝わっています。
このように、藍は染料だけでなく薬として利用できることが、古くから人々に知られていました。
藍染めの衣服は見た目の美しさだけでなく、虫を寄せつけない、傷の化膿を防ぐ、臭いを抑えるといったさまざまな利点があるとされ、室町時代には鎧の下に着る肌着や、野良着にも重宝されていたそうです。また阿波の藍商人は行商の際、懐に藍をしのばせ、旅先でお腹を下したときに食していたといわれ、「藍商人は病知らず」との言葉も伝わっています。
このように、藍は染料だけでなく薬として利用できることが、古くから人々に知られていました。
今回お話を伺ったのは、徳島市を拠点として調剤薬局を営む「株式会社BON ARM(ボンアーム)」の三谷芳広代表です。
ボンアームは薬局の運営を中心とした事業の他、「藍食人(あいしょくにん)」ブランドで、食用藍を使ったお茶やお菓子、生活用品などの販売をおこなっています。また、自社工房での藍染めや藍の蒸留水を利用した化粧水づくりなどの体験、海外からの研修旅行者の受け入れ、乾燥藍葉や藍成分抽出パウダーなどの製造販売も手掛けています。
「商品の販売や工房での活動を通じて『藍のある生活』を提案しています。そのコンセプトを一言で表現するなら、『湯治場(とうじば)』をもじった『藍治場(あいじば)』という言葉でしょうか。藍のもつ薬効そのものに加え、美しい藍染めの布に触れたり、藍のお茶を飲んだりして心がやすらぐ、そういう感覚的な癒しの効果を多くの方々に感じていただき、心身の健康につなげられればと考えています」と、三谷さんは話します。
ボンアームは薬局の運営を中心とした事業の他、「藍食人(あいしょくにん)」ブランドで、食用藍を使ったお茶やお菓子、生活用品などの販売をおこなっています。また、自社工房での藍染めや藍の蒸留水を利用した化粧水づくりなどの体験、海外からの研修旅行者の受け入れ、乾燥藍葉や藍成分抽出パウダーなどの製造販売も手掛けています。
「商品の販売や工房での活動を通じて『藍のある生活』を提案しています。そのコンセプトを一言で表現するなら、『湯治場(とうじば)』をもじった『藍治場(あいじば)』という言葉でしょうか。藍のもつ薬効そのものに加え、美しい藍染めの布に触れたり、藍のお茶を飲んだりして心がやすらぐ、そういう感覚的な癒しの効果を多くの方々に感じていただき、心身の健康につなげられればと考えています」と、三谷さんは話します。
藍のもつ力で、人も地域も元気にしたい
薬局を営む三谷さんが、なぜ藍に関わるようになったのでしょうか。そのもとには、薬剤師として30年以上にわたり患者さんを見てきた経験があるといいます。
「うちの薬局に来てくださる患者さんの多くが、慢性疾患に悩まれている方なんです。薬剤師は治療のために薬を処方しますけど、慢性疾患というのは正直『これが原因です、ではこの薬を飲んでください』と言ってパッと治るような単純なものではないんですよね。
でも、どれだけ薬を飲んでも治らなかった身体の不調が、患者さん自身が意志をもって食生活の改善や運動に取り組むことで、明らかによくなっていくことがあります。そんなケースを多く見ているうちに、生活習慣を整えることの大切さ、『食』の大切さを強く感じるようになりました」。
特に、糖尿病の増加に危機感を抱き、野菜を食べようという活動を始めた三谷さん。2010年には、無農薬野菜を使用したジュースやスイーツなどを提供する店舗をオープンしました。そして、この事業を通じて知り合った地元の藍農家の方に、藍が古くより薬用・食用として用いられてきたことを教わり、また自分でも研究を始めると、すぐれた効能をもつ藍の魅力にどんどん惹かれていったそうです。
それに加えて、三谷さんは前々から、徳島の魅力をもっと外部に発信したいとの気持ちを抱いていました。
「学生時代から十数年東京で暮らしてきて、県外での徳島の知名度の低さを痛感していたんです。せっかく地元に戻ってきたのだから、地域の盛り上げに貢献したい。薬剤師として、地域の方々の健康に貢献したい。その2つの想いに、徳島のすばらしい特産品である藍がぴったりとはまりました」。
でも、どれだけ薬を飲んでも治らなかった身体の不調が、患者さん自身が意志をもって食生活の改善や運動に取り組むことで、明らかによくなっていくことがあります。そんなケースを多く見ているうちに、生活習慣を整えることの大切さ、『食』の大切さを強く感じるようになりました」。
特に、糖尿病の増加に危機感を抱き、野菜を食べようという活動を始めた三谷さん。2010年には、無農薬野菜を使用したジュースやスイーツなどを提供する店舗をオープンしました。そして、この事業を通じて知り合った地元の藍農家の方に、藍が古くより薬用・食用として用いられてきたことを教わり、また自分でも研究を始めると、すぐれた効能をもつ藍の魅力にどんどん惹かれていったそうです。
それに加えて、三谷さんは前々から、徳島の魅力をもっと外部に発信したいとの気持ちを抱いていました。
「学生時代から十数年東京で暮らしてきて、県外での徳島の知名度の低さを痛感していたんです。せっかく地元に戻ってきたのだから、地域の盛り上げに貢献したい。薬剤師として、地域の方々の健康に貢献したい。その2つの想いに、徳島のすばらしい特産品である藍がぴったりとはまりました」。
その後、三谷さんは商品開発や工房運営などをおこなう中で、藍の刈り取りや「すくも」(染料のもとになるもの)づくり、藍染めなど、さまざまな作業を実際に自分の手でやってみるようになりました。
「藍葉を発酵させてすくもを作るのですが、自然の力で鮮やかな色を出せることがとてもおもしろく、昔の人が経験的に得てきた技術の豊かさに驚かされます。
それに、藍には不思議な癒し効果があって、イライラしていても染め場に入るとスーッと心が鎮まっていくんですよ。多忙でストレス社会を生きる現代人には、こうした自然の癒しの効能を積極的に取り入れることも必要だと思います」と語ります。
海外では、発達障害の治療にも使われることがある藍。現代に生きる私たちの疲れた身体や心を癒す効果が注目され、衣食住に取り入れることで身体を総合的に整えるなど、藍の世界観はまだまだ広がります。
「藍葉を発酵させてすくもを作るのですが、自然の力で鮮やかな色を出せることがとてもおもしろく、昔の人が経験的に得てきた技術の豊かさに驚かされます。
それに、藍には不思議な癒し効果があって、イライラしていても染め場に入るとスーッと心が鎮まっていくんですよ。多忙でストレス社会を生きる現代人には、こうした自然の癒しの効能を積極的に取り入れることも必要だと思います」と語ります。
海外では、発達障害の治療にも使われることがある藍。現代に生きる私たちの疲れた身体や心を癒す効果が注目され、衣食住に取り入れることで身体を総合的に整えるなど、藍の世界観はまだまだ広がります。
伝統文化の継承のために、生産者を守る
▲徳島県美馬市の標高400Mの山間部にある藍畑
ボンアームの藍は徳島県美馬市の、地域、場所、無農薬など、ニーズを満たす9軒の契約農家が無農薬栽培されたものです。契約農家は「とくしま安2農産物(安2GAP)認証制度」(徳島県版GAP認証)とボンアームの自社基準に沿った、安心・安全な藍を生産しているのですが、特に食用として用いる藍は、世界農業遺産「にし阿波の傾斜地農耕システム」として登録されている地域内の標高400mの畑で栽培したものに限定しています。
刈り取り作業は真夏の酷暑の時期。特に高地の山の斜面での栽培は機械化がしにくい上、水の管理などもとても難しく、車も入れないので基本は手作業です。
「日本の農業全体の問題と同様、藍農家さんも労働に充分に見合う収入を得られているとはいえない状況で、作り手がなかなか増えない。藍染めの伝統文化をよりよい形で次世代に継承していくためには、より付加価値の高い商品づくりをしながら、生産者を守ることが必須といえます。
私たちは食用藍ということで厳しい品質基準を定めているため、契約農家さんからは比較的高い価格で買い取らせていただくようにしているのですが、食用、薬用など付加価値の高い商品への利用がもっと広がれば、藍農家さん全体の単収も上がっていくだろうと考えています」と、三谷さんは話します。
藍のすばらしさを追求し、藍の発酵技術のおもしろさや薬効としての魅力をどう伝えていくか。三谷さんは、試行錯誤しながらも、藍の伝統産業を継承していくためには、生産者に経済的なサポートなくして成り立たないということを強く感じていらっしゃいます。
刈り取り作業は真夏の酷暑の時期。特に高地の山の斜面での栽培は機械化がしにくい上、水の管理などもとても難しく、車も入れないので基本は手作業です。
「日本の農業全体の問題と同様、藍農家さんも労働に充分に見合う収入を得られているとはいえない状況で、作り手がなかなか増えない。藍染めの伝統文化をよりよい形で次世代に継承していくためには、より付加価値の高い商品づくりをしながら、生産者を守ることが必須といえます。
私たちは食用藍ということで厳しい品質基準を定めているため、契約農家さんからは比較的高い価格で買い取らせていただくようにしているのですが、食用、薬用など付加価値の高い商品への利用がもっと広がれば、藍農家さん全体の単収も上がっていくだろうと考えています」と、三谷さんは話します。
藍のすばらしさを追求し、藍の発酵技術のおもしろさや薬効としての魅力をどう伝えていくか。三谷さんは、試行錯誤しながらも、藍の伝統産業を継承していくためには、生産者に経済的なサポートなくして成り立たないということを強く感じていらっしゃいます。
地域の高齢者が活躍できる居場所を作りたい
「藍食人」オンラインショップには、ノンカフェインの藍茶やハーブティー、ほんのり青色をつけたラングドシャ、藍染めの茶器など、さまざまな商品がラインアップされています。徳島県内の土産店などでも販売され、国内外の観光客からも好評です。
▲藍をブレンドしたハーブティー(左)と藍染めの茶器(右)
さらに、これからやりたいことの構想も固まっているという三谷さん。
「藍と生薬を使った化粧品を作りたいんです。藍には保湿や抗酸化作用といった、美容によい効果をもたらす成分も豊富に含まれていますからね。
それも、単に自社で製造して売るのではなくて、化粧品の地産地消を目指し、自分たちで作っていきませんか?というスタイルで、地域の一般の方々に、自分たちが使う化粧水や石鹸を、自分たちの手で作ってもらえるしくみを考えています」。
例えば、薬局を訪れる患者さんで、ご退職されて家で過ごす時間が増えている方々に、一緒に作業する環境を提供し、藍の栽培から商品開発、パッケージやネーミングなどの企画、製造、販売までのあらゆる業務を担ってもらうというもの。自分のやりたいと思う仕事を出来る範囲で楽しみ、地産地消のビジネス規模で、それ以上に大きくすることが目的ではないのです。
高齢の患者さんたちが積極的に関われる場所を作ることで、地域の活性化とウェルビーイングへつなげていくのです。
「藍と生薬を使った化粧品を作りたいんです。藍には保湿や抗酸化作用といった、美容によい効果をもたらす成分も豊富に含まれていますからね。
それも、単に自社で製造して売るのではなくて、化粧品の地産地消を目指し、自分たちで作っていきませんか?というスタイルで、地域の一般の方々に、自分たちが使う化粧水や石鹸を、自分たちの手で作ってもらえるしくみを考えています」。
例えば、薬局を訪れる患者さんで、ご退職されて家で過ごす時間が増えている方々に、一緒に作業する環境を提供し、藍の栽培から商品開発、パッケージやネーミングなどの企画、製造、販売までのあらゆる業務を担ってもらうというもの。自分のやりたいと思う仕事を出来る範囲で楽しみ、地産地消のビジネス規模で、それ以上に大きくすることが目的ではないのです。
高齢の患者さんたちが積極的に関われる場所を作ることで、地域の活性化とウェルビーイングへつなげていくのです。
三谷さんは話します。
「高齢の患者さんに薬を出したり、生活習慣改善のアドバイスをしたりして、元気になりましょうねと言うと、『そんなにがんばって元気にならんでもええんよ。特にやることもないから』と言うんです。その話には少し考えさせられるものがあって、やはり健やかで元気に生きていくウェルビーイングを追求するには、地域や社会の中に自分の役割があることがとても重要なんじゃないかと。だったらその場所をうちで作ればいいと考えました。
単純作業でも「働く」ということ、仕事を通じて幸せを感じることが大切で、外に出て身体を動かしたり人と話したりすると、生活にハリが出てくる。長く培ってきた知恵と経験を活かしながら人の役に立てることに喜びを感じる。そして、地産地消がウェルビーイングにつながる、という一つのモデルケースかもしれませんね。」
ボンアームが扱うのは、世界に誇る阿波藍。藍に囲まれて働きながら、心も身体も元気になれる場所は、まさに三谷さんの目指す「藍治場」といえるのではないでしょうか。人々がいつまでもいきいきと元気に暮らせるように、先人の知恵の詰まった藍の文化が、この先も豊かに続いていくように。三谷さんの取り組みはこれからも続きます。
「高齢の患者さんに薬を出したり、生活習慣改善のアドバイスをしたりして、元気になりましょうねと言うと、『そんなにがんばって元気にならんでもええんよ。特にやることもないから』と言うんです。その話には少し考えさせられるものがあって、やはり健やかで元気に生きていくウェルビーイングを追求するには、地域や社会の中に自分の役割があることがとても重要なんじゃないかと。だったらその場所をうちで作ればいいと考えました。
単純作業でも「働く」ということ、仕事を通じて幸せを感じることが大切で、外に出て身体を動かしたり人と話したりすると、生活にハリが出てくる。長く培ってきた知恵と経験を活かしながら人の役に立てることに喜びを感じる。そして、地産地消がウェルビーイングにつながる、という一つのモデルケースかもしれませんね。」
ボンアームが扱うのは、世界に誇る阿波藍。藍に囲まれて働きながら、心も身体も元気になれる場所は、まさに三谷さんの目指す「藍治場」といえるのではないでしょうか。人々がいつまでもいきいきと元気に暮らせるように、先人の知恵の詰まった藍の文化が、この先も豊かに続いていくように。三谷さんの取り組みはこれからも続きます。
- ■ボンアームウェブサイト:https://www.bon-arm1.com/
- ■藍食人ウェブサイト:https://www.aisyokunin.com/
株式会社BON ARM
- ●藍の効能を生活に取り入れ、食藍の製品を通じて人々の健康(ウェルビーイング)に貢献。
- ●地域の特産品である藍を使った製品づくり・イベントを通じて、地域の活性化を促進。
- ●「化粧品の地産地消のしくみ」で、地域の高齢者がいきいきと生活しながら楽しく働ける場をつくり、地産地消と地域の心と身体のウェルビーイングを一体化。
- ●労働に見合う適正価格で藍の取引をおこない、生産者の生活を守る。持続可能な藍栽培を支援することで、伝統文化の保全にも貢献。
- ●人や環境に配慮し、無農薬で栽培される藍(とくしま安2農産物(安2GAP)認証、世界農業遺産「にし阿波の傾斜地農耕システム」の登録地域内で栽培された藍)に付加価値が生まれる商品開発や取り組み。