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サステナブル・ストーリー/
ナガセヴィータのWebマガジン
10story
2025.03.26
岡山から海を越えてスーダン支援町工場製「食品乾燥機」で国際貢献

国内トップシェアをもつ食品乾燥機メーカー

大紀産業株式会社は、岡山市北区に本社・工場を構える、食品乾燥機の専門メーカーです。
1948年に創業し、当初は葉タバコ用の灯油式乾燥機の製造を主としていましたが、時代とともに食品乾燥機へとシフト。3代目社長として安原宗一郎さんが経営を引き継いだ翌年の2008年には、業界初の電気式食品乾燥機を開発し、販売を開始しました。
家庭用コンセントで安全・手軽に稼働でき、価格も安い電気式は、ドライフルーツや野菜チップスといった農産加工品づくりに非常に役立ち、農家の六次産業化(農家が農産物に付加価値をつけて販売する取り組み)を後押しするものに。現在は食品乾燥機分野で国内トップシェアを誇り、特に大型機種については、世界でも他に競合のない独自商品となっています。
製品のポテンシャルと、スーダンのニーズとがマッチ
電気乾燥機の開発は、会社にとって大きくチャンスを広げるものでした。灯油は国によって品質に差があり、その違いが原因で故障を招くことがありますが、電気は世界共通。コンセントを差せばすぐに使え、さらにメンテナンスの手間がかからず故障も少ないことから、海外市場にも参入できるようになったのです。日本の食品メーカーの海外工場での導入を足がかりに、ベトナム、インドネシアなどの東南アジアから、アメリカやアフリカなどへも製品を納入するようになりました。
そんな折、海外展開をサポートしてくれていた知り合いのコンサルタントから、安原社長にひとつの話が持ちかけられたのです。
「スーダンに行きませんか?スーダンのニーズと、御社の技術・製品が、ぴったりはまるはずです」ーー。
アフリカ北東部に位置するスーダン共和国では、タマネギが基幹作物であり、家庭料理の材料として保存性の高い乾燥タマネギが広く用いられています。しかし、国内の情勢悪化で大規模なタマネギ乾燥工場が稼働を停止。これにより大量の生タマネギが余って価格が大暴落し、収穫放棄せざるを得ない事態となりました。また冷蔵設備の整わない高温多湿の環境の中、畑や市場に腐ったタマネギが放置され、フードロスを引き起こしているという課題もありました。
そうした状況を解決するために、農家が自分で扱える食品乾燥機の導入が求められていました。しかもスーダンは水力発電の国で電気代が安いため、灯油式ではなく電気式の乾燥機がよいとのこと。
アフリカの過酷な環境で問題なく稼働し、誰でも安全に扱える、大型の電気乾燥機を提供できるのは、日本国内でも大紀産業だけ。そのオンリーワン技術を見込んで、JICA(国際協力機構)の支援事業に応募してみないかとの話が来たのでした。
社長としても、かねてより「海外市場をもっと拡大したい」「海外展開するなら、国際貢献につながることをしたい」との思いを抱いており、JICAの事業はまさにそれを叶えるものでもありました。
とはいえ、スーダンは軍事政権で、政情不安定。日本から行って帰るだけでも大変な労力がかかり、今後ビジネスにつながるかどうかもわからない。当然、社内には不安視する声もあったといいます。
「でも、確かにうちにしかできないこと。なにがあっても、とにかくチャレンジしてみようと思いました。電気乾燥機の開発だって、誰もやらなかったことをやって結果的に成功したのだから」と、安原社長は話します。
「まず実物を見てほしい」…製品を携え、スーダンの地へ
2015年にスタートした最初の事業は、まず現地ニーズの調査をおこなうというものでした。
「でも、ただ現地に行って『うちの乾燥機を使うといいですよ』と言ったって、口だけではなにも伝わりませんよね。とにかく実物の機械を見て、実際に使ってもらわないことには、こちらの本気度が伝わらないと思って」、自社負担で当時最新式の電気乾燥機をスーダンに送り、無償で設置しました。
現地で機械のデモンストレーションをすると、たくさんの住民が日本製の機械をひと目見たいと集まってきたそうです。
「みなさん興味津々で、すごい熱量を感じましたね。作業に関係ない近所の人たちも入り混じり、あれやこれやと質問してきて大にぎわいでした」。
現地で売られている天日干しの乾燥タマネギは、紫外線で焼けて茶色っぽく、じゃりじゃりとした砂ぼこりが混じるものでした。対して、乾燥機から出てきたタマネギは真っ白で、切り立てのようなフレッシュ感。現地の人にもその魅力は一目瞭然で、瞬時に「これは売れる!」と太鼓判を押してくれたのだそうです。

農家の女性が自分で収入を得られる組合づくり
自社の乾燥機が現地に受け入れられることが確認でき、2018年からは次の段階の事業に取り組むことになりました。
その事業は、現地の農家の女性たちで小規模な組合を作り、組合単位で乾燥タマネギの製造・販売ができるしくみを作るというもの。これは日本国内で、農家の女性が農産加工品を自家製造・販売するのに乾燥機が役立ったことからヒントを得たといいます。
スーダンでは女性の失業率が非常に高く、特に若い年代では半数近くが働けていないという現状がありました。そこに自社の電気乾燥機とスライサー、パッキング機を一式導入すれば、力仕事のできない女性でも、自分たちで乾燥タマネギの製造ができます。そして商品を売って、自分でお金を稼ぐことができるのです。
「スーダンはイスラム圏の国で、女性はあまり前に出てきません。説明会を開いても、前の椅子に座っているのは男性ばかりで、女性は後ろのほうのゴザに座っているんです。実際に機械を使う女性たちに意見を聞きたいのですが、気軽に話しかけることは憚られ、現地特有の難しさも感じました。でも、実際に女性組合での作業が始まると、みなさん積極的で、イキイキしていましたね。買ってもらいやすいように調理レシピをつけるなど自主的に工夫もしていて、自分たちで商売をやっていこうという意欲を強く感じました」と、安原社長は現地での印象を語ります。
JICA事業のほか外務省のODA(政府開発援助)事業にも参加し、これまでにスーダンへ30台以上の電気乾燥機を導入。生タマネギの廃棄を減らし、農家の所得向上と女性の雇用支援に貢献することができました。
この取り組みを機に、ボツワナやマラウイなど他のアフリカ諸国へも導入が広がり、ビジネスとしての海外市場もさらに拡大しました。
「過酷なアフリカの環境で5年以上問題なく稼働しているという事実が、耐久性・メンテナンス性の高さをなによりも証明するものになり、信頼度は目に見えて上がりました」とのこと。現在、製品の納入先は、世界30ヵ国以上にも及びます。

規格外の農作物も、価値を高めて活用できる
もちろん日本国内においても、同社の食品乾燥機はさまざまなところで活躍しています。
従来、ドライフルーツの多くは輸入品でしたが、乾燥機の導入によって、国産の新鮮な果物で素材を活かしたドライフルーツができるようになりました。少し傷があったり、形が悪かったりするような、規格外の果物や野菜を有効に活用できることも大きな魅力です。
例えば乾燥野菜パウダーを練り込んだマカロンや、岡山産ピオーネの大粒レーズンパンなどのような、付加価値の高い商品づくりができるため、農業法人や洋菓子店、パン店などから大手食品メーカーまで導入が広がっています。
こうした販売先の開拓には、ナガセヴィータも一役買っています。
ナガセヴィータの製品用途開発セクション「L’プラザ」と大紀産業との協働で、トレハロースを用いたドライフルーツのレシピ開発をおこない、これを営業提案時のサンプルに使っていただいています。
「カタログを見せて説明するよりも、やっぱり実際にできたものを食べておいしさを確かめてもらうほうが、断然説得力があるんですよ。品質のよいお菓子がつくれるトレハロースの魅力と、食品乾燥機の魅力とを合わせて提案することで、お互いに相乗効果のあるアピールができますよね」と、安原社長は笑顔で語ります。

地方の小さな企業でも、世界の課題解決に貢献できる
スーダンでの取り組みが称えられ、2021年には「おかやまSDGsアワード2021(特に優良な取り組み)」、2023年には「新ものづくり・新サービス展2023 SDGsアワード優秀賞」を受賞。マスコミに多く取り上げられたことで知名度が上がり、問い合わせが増えるとともに、社内的にも「自分たちの作る製品が世界に役立っている」との意識が高まったといいます。
また、学校のSDGs学習などのために、講演してほしい、会社を見学させてほしいといった依頼も多く寄せられるようになりました。
「岡山の小さな会社でも、独自の製品によって遠いアフリカの国にまで社会貢献できるということを、若い人にも伝えていきたいですね」と安原社長は話し、多忙な仕事の合間を縫って積極的に依頼に応じているということです。
ナガセヴィータも引き続きレシピ開発などの協働を通じて、大紀産業さまの取り組みを応援していきます。
大紀産業株式会社
- ●自社製品の特性を活かし、アフリカや東南アジアでのフードロス削減、農村地域の貧困層の収入向上や女性の雇用促進に貢献
- ●規格外農作物の有効活用や付加価値のある商品開発に貢献し、国内農家の六次産業化を後押し
- ●講演や工場見学受け入れを通じてSDGs関連の情報を積極的に発信し、地元岡山におけるSDGsに関する取り組みの発展に尽力