多機能糖質

トレハロースの研究

トレハロースとは

トレハロースは、グルコース(ぶどう糖)2分子がα,α-1,1結合した非還元性の二糖で、私たちがいつも口にしている多くの食品の中に含まれています。
中でも、きのこ類に多く含まれており、乾燥重量当たり20%以上にもおよびます。酵母にもきのこ類と同程度含まれ、私たちはパンやビールなど発酵食品を介してもトレハロースを摂取していることになります。また、豆類、海藻類などにもトレハロースは含まれています。
このようにトレハロースは天然に広く分布しており、太古の昔から食されてきた糖質のひとつです。
トレハロースの構造式

トレハロースの特徴
トレハロースはでん粉の老化防止抑制、たん白質の安定化などの優れた物性機能を有しており、加工食品の食感向上や味質改善の目的で多くの食品に利用されています。
甘味度は砂糖の38%で、すっきりした甘さが特徴です。トレハロースは消化管内で消化酵素(トレハラーゼ)によりグルコース2分子に分解されて吸収されます。
トレハロースの生理機能
トレハロースは、種々の食品の品質を保ち、美味しさを引き出す糖質として、食品分野で広く利用されてきました。
一方、クマムシなどの微小動物、イワヒバなどの植物が砂漠などの厳しい環境の中で生き続けられるのは、トレハロースが生体内に存在するためであるといわれています。また、トレハロースは昆虫の体液に含まれており、飛翔のエネルギー源としても機能しています。このようにトレハロースは生物の生命に深くかかわっている糖質といえます。
近年、トレハロースには骨粗しょう症やメタボリックシンドロームを予防する効果など、現代社会の抱える健康問題に関連した生理機能も見いだされてきています。トレハロースは、健康を維持し、生活の質(QOL)向上に役立つ素材としてさまざまなシーンでの活用が期待されます。
  • インスリン低分泌作用
  • 耐糖能改善作用
  • 細胞障害保護作用(タバコ煙ストレス、酸ストレス、乾燥ストレス)
  • 脂肪細胞肥大化抑制作用
  • 骨粗しょう症予防作用
青字で示している生理機能のデータは当WEBには掲載しておりませんが、成果については学会等で発表しています。

インスリン低分泌作用

インスリン刺激の少ない糖質です

検証試験

健康な20名の成人男女に、グルコースまたはトレハロースを25 g経口摂取してもらい、血中インスリン値と血糖値の推移を比較しました。

結果
トレハロース摂取はグルコース摂取に比べてインスリン値、血糖値の急激な上昇や下降はありませんでした。

出典
Yoshizane C. et al., Nutrition Journal 2017 16:9. DOI:10.1186/s12937-017-0233-x を改変

耐糖能改善作用

耐糖能異常の予防、耐糖能を改善しました
※耐糖能とは、血糖値を正常に保つためのグルコースの処理能力のことです。

検証試験

肥満傾向(BMI 23以上)の成人男女34名に、1日3回毎食時に3.3 g(約10 g/日)のトレハロースまたは対照としてスクロースを3カ月間継続して摂取してもらいました。摂取前と摂取3カ月後に耐糖能の指標とされるグルコース負荷試験を実施し、空腹時からグルコース負荷2時間後の血糖値変化率を比較しました。
➤健康な人では、グルコース負荷2時間後の血糖値は空腹時のレベルにまで戻ります。一方、耐糖能が低下していると、2時間後の血糖値が戻りにくくなります。

結果
トレハロース摂取群は、摂取前に比べ3カ月後の血糖値変化率が有意に低下しており、グルコース負荷2時間後の血糖値が、空腹時のレベルにまで戻りやすくなっていました。

出典
Mizote. et al., J Nutr Sci Vitaminol, 62, p383 (2016) を改変
また、1日3.3 gの低用量のトレハロース摂取によって、グルコース負荷 2時間後の血糖値が元にもどりにくい人の耐糖能が改善されました。
Yoshizane et al.,Nutr. J., 19 (2020), p. 68. doi: 1186/s12937-020-00586-0

細胞障害保護作用:タバコ煙成分ストレス

タバコ煙成分による細胞障害を抑制しました

検証試験

フィルター付きタバコ5本を吸引し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)6 mLに排出して、煙中の揮発成分と粒子成分を溶解しました。0.22 μmフィルターろ過し、タバコ煙エキス(CSE)を調整しました。
正常ヒト気管支/気管上皮細胞(NHBE細胞)を1日間培養後、CSEとともにトレハロースを添加し、3時間培養を行いました。培養終了後、細胞数をCell counting kitで測定しました。

結果
トレハロースはタバコ煙成分によるNHBE細胞の障害を抑制しました。

社内データ

細胞障害保護作用:酸ストレス

酸による細胞障害を抑制しました

検証試験

ヒト細胞株(KB細胞)を1日間培養後、0.2% クエン酸とともにトレハロースを添加し、1.5時間培養を行いました。培養終了後に細胞を洗い、細胞数をCell counting kit で測定しました。

結果
トレハロースはクエン酸によるヒト細胞株(KB細胞)の障害を抑制しました。

社内データ

細胞障害保護作用:乾燥ストレス

乾燥による炎症性因子の産生を抑制しました

検証試験

正常ヒト表皮角化細胞(NHEK細胞)を3%トレハロース存在下で1日間培養後、培養上清を除去し、5分間乾燥刺激を与えました。3%トレハロース存在下でさらに24時間培養し、上清中の炎症性因子であるIL-1α量を測定しました。なお、対照群については、トレハロース無添加で同様の処理を行いました。

結果
トレハロースはNHEK細胞において、乾燥刺激により誘導される炎症性因子IL-1αの産生を抑制しました。

社内データ

運動パフォーマンス向上効果

長時間の高強度間欠型持久運動(持久運動と全力運動が混在する運動)において、運動パフォーマンスを向上させました

検証試験

健康な男子大学生25名を対象として、持久運動60分と全力運動の運動序盤に、飲料(水または 8% 糖溶液)を 500 mL 単回摂取後、さらに持久運動30分と全力運動を3回実施しました。運動パフォーマンスは、運動序盤の全力運動を100%とし、各飲料摂取による運動パフォーマンスを比較しました。

結果
トレハロース溶液を摂取すると、水やグルコース溶液摂取と比較して、運動終盤(最後の全力運動)の運動パフォーマンスを向上させました。

出典
Wadazumi et al., Sports(Basel). 2019 Apr 29;7(5):100. doi: 10.3390/sports7050100を改変