接着剤を耐熱温度別で紹介
(100℃〜、200℃〜、300℃〜)
高温下での接着不良は、電子部品のリフロー工程や自動車エンジンルーム、さらには燃料電池スタックの封止など、多岐にわたる分野で課題となります。
本稿では、100℃程度の温度帯から300℃超までの耐熱ゾーン別に代表的な接着剤を整理し、選定時のポイント、用途事例、性能を最大化する硬化・後焼き条件について詳説します。自社プロセスへの置き換え検討や、不良低減のヒントとしてご活用ください。

100 – 200℃の耐熱温度を持つ接着剤の紹介
易解体性接着剤
エポキシ樹脂主鎖にジスルフィド(S–S)結合を導入し、常温で17MPa前後のせん断強度、高耐熱性を確保します。特長は、「分解液で60℃・4時間処理すれば解体できる」点にあり、EVバッテリーや精密モジュールのリワーク工程での採用が増えています。分解性と耐熱性を兼ね備えるため、循環型設計を目指す製品開発に適しています。
エポキシ系(汎用グレード)
ビスフェノールA型エポキシに変性アミン硬化剤を組み合わせた2液型。Tgは120–140℃、せん断強度は15–25MPa。80℃・2時間の後焼きにより架橋密度が向上し、150℃の短時間のはんだリフローにも耐性を発揮します。金属・CFRPの構造接着やPCBコンポーネント固定に最適です。
RTVシリコーン系
脱アルコキシタイプが主流。耐熱温度180℃、せん断強度1–4MPaと柔軟層が特長です。熱サイクル試験で膨張応力を緩和できるため、パワー半導体の封止材として多く採用されています。24時間の湿熱硬化後、150℃・4時間のポストキュア処理を行うことで、接着強度の安定性が向上します。
改質シアノアクリレート
従来品では耐熱温度は80℃程度でしたが、ウレタン部分架橋によりTgを底上げし、使用温度を140℃まで拡大。ガラスや金属の高速固定(数秒)と耐熱性を実現し、はんだ付け補助治具や光学部品の仮固定に活用されます。
嫌気性アクリル
ギャップが0.05mm以下の鉄やステンレスとの接着に使用され、Tgは130℃、耐熱温度は175℃程度になります。ねじ緩み防止剤としてよく知られていますが、近年は加硫ゴムと金属の薄膜接着にも応用されています。
200 – 300℃の耐熱温度を持つ接着剤の紹介
高耐熱エポキシ
ノボラック型エポキシを無水酸で硬化させ、Tg200℃以上を実現。せん断強度は25–35MPaで、150℃・2時間+200℃・2時間の二段硬化が推奨。車載ECUのパワーリレー封止やオイルパン接着で実績があります。
フェノール樹脂
レゾール型フェノール樹脂にヘキサミンを加えて硬化。270℃でもガラス転移しない高耐熱性が特長です。金属基材との接着には下地プライマーが必須で、圧縮せん断強度は30MPaを超え、摩擦材のバッキングプレート接着に用いられます。
高耐熱シリコーン
フェニル基を多く導入したPVMQ(フェニルビニルメチルシリコーン)は250℃で連続使用が可能です。せん断強度は4–6MPa程度ですが、絶縁性と耐アーク性に優れ、コネクタ封止やLEDモジュール封止で使われます。180℃・8時間のポストキュアで揮発残渣を除去。
シアネートエステル/BMI
シアネートエステル樹脂やビスマレイミド(BMI)は、Tg200–280℃を実現。ガラス転移後も急激な強度低下が起こりにくく、航空機のCFRP構造材のハニカム接着に採用されています。硬化には180℃以上・3MPaの加圧オートクレーブが必要。
300℃以上の耐熱温度を持つ接着剤の紹介
超高耐熱エポキシ
三官能エポキシに芳香族アミンと無水物を多段反応させ、Tg320℃を達成。オーバーカーボン構造で硬化収縮が小さく、せん断強度30MPa前後を維持します。ロケットエンジン周辺部材や真空炉内治具の固定用として使用されています。
ポリイミド系
ポリイミドワニスを250–300℃でイミド化硬化。連続使用温度は350℃、瞬間では500℃にも耐えます。せん断強度は20–28MPaです。高真空・放射線環境でもガス放出が少なく、宇宙機構造部材や半導体TABテープ補強に用いられています。溶媒はNMP代替としてGBL/CPME系へ移行中。
セラミック/無機系
水ガラス(Na₂O–SiO₂)やアルミン酸カルシウム系などにマイクロシリカを添加し、120℃で予備乾燥後、800℃で焼結させます。耐熱温度は1000℃を超え、誘電率は4以下です。一般的な有機系の接着とは異なり、溶融浸透で硬化するため、耐食パイプの接合や発熱体固定部に使われます。
シアネートエステル強化系
シアネートエステル樹脂に多官能PEEKオリゴマーを加えてタフニングし、Tg310℃、せん断強度40MPaを実現。–55~260℃のサイクル寿命5000回でもクラックが発生しにくく、SiCパワーモジュール封止用として注目を集めています。
エポキシ系接着剤並の耐熱温度と高い分解性能を誇る「易解体性接着剤」
ナガセケムテックスが開発した「易解体性接着剤」は、通常環境下で良好な接着性能を発揮しながらも、従来の化学溶剤を使わず、特殊分解液によって温和な条件で容易に剥離し、接着剤残渣を除去できる製品です。母材へのダメージが少なく、安全かつ簡単に剥離できるため、部品のリサイクル性が向上します。さらに、特殊分解液自体も再利用可能であり、環境負荷の低減にも貢献します。

この易解体性接着剤は、エポキシ樹脂のネットワーク構造にジスルフィド結合(SS結合)などの可逆的な結合を組み込んでいます。専用分解液に室温~60℃で浸漬することで、特定の結合が選択的に切断され、分子が短鎖化して溶出する設計です。以下に、本製品の特長をご紹介いたします。
特長
- ●安全性 : 易解体性接着剤は非ハロゲン・非毒劇物・無溶剤設計で作業環境リスクを低減。
- ●マルチマテリアル対応 : 金属・樹脂・複合材の混合接合部でも母材を傷めず分解可能。
- ●循環利用 : 分解液は再利用でき、廃液コストを大幅に削減。
- ●量産適合 : 浸漬→水洗→乾燥のバッチ工程で治具レス処理が可能。EVバッテリモジュールや建材接合などの再資源化プロセスへの適用が期待されています。
易解体性接着剤の分解原理やグレードラインアップ、分解液の運用方法などの詳細は、製品紹介ページをご覧ください。
