接着剤溶剤を代用できる分解液|労働環境改善とリサイクル課題を解決
「溶剤コストが年々上昇し、廃溶剤ドラムが置き場を圧迫している」「作業者に皮膚炎や鼻炎が増え、溶剤中毒や溶剤アレルギーを疑っている」——そんな声が接着・塗装現場から絶えません。従来のトルエンやMEK(メチルエチルケトン)などの溶剤は洗浄力が高い反面、リサイクルしにくく、引火・爆発のリスクや健康被害も抱えています。
本稿では、接着剤溶剤の問題点を整理し、易解体性接着剤で採用される「分解液」を活用した代替ソリューションを紹介します。溶剤の処分に悩む生産技術者やEHS(環境・安全衛生)担当者は、ぜひご一読ください。

接着剤溶剤の問題点
廃棄処分時にリサイクルが難しくサステナブルでない
粘度の低い有機溶剤は、接着剤や顔料を溶かすことで粘着性の高い汚濁液へと変化し、蒸留による再生が技術的・経済的に難しくなります。実際、製造業で使用される溶剤回収法の8割以上が蒸留ですが、レジンや油分を多く含む廃液では回収率が30~50%に留まるという報告もあります。
また、日本の廃棄物処理法では、事業者が産業廃棄物(廃溶剤を含む)を適正に処理する責任を負っており、委託処理でもマニフェスト管理が義務づけられています。焼却処理はCO₂排出と費用がかさむため、原単位削減や溶剤リサイクルのスキーム構築は避けられない課題となっています。
危険物のため引火や爆発の恐れがある
トルエン、アセトン、シクロヘキサンなど多くの洗浄溶剤は、引火点が−20〜7℃程度と非常に低く、静電気火花でも着火する恐れがあります。大型タンクや超音波洗浄機を屋内に置く場合、排気ダクト・防爆電装・アース接続などの設備投資が必要です。さらに、爆発下限界(LEL)が低いため、換気装置が一瞬でも停止すれば危険濃度に達するリスクがあります。こうしたリスクは労災だけでなく生産停止・設備損失を招き、近年は「低VOC・高フラッシュポイント」化が調達基準に盛り込まれつつあります。
労働安全上の問題(中毒症状やアレルギー)が発生する
代表的な溶剤であるトルエンは中枢神経系に作用し、頭痛・めまい・倦怠感などの急性症状に加え、長期ばく露により記憶障害や末梢神経障害を引き起こすことが知られています。また、水溶性が高く皮膚からも吸収されるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)は、動物試験で胎児毒性が確認されており、EUのCLP規則では「生殖毒性カテゴリ1B」に区分されています。
さらに、pHが13を超える強アルカリ型ペイントリムーバーや、pH2未満の酸洗浄剤は、タンパク質や皮脂を瞬時に加水分解し、接触性皮膚炎や化学熱傷の要因となります。症状が慢性化するとアレルゲン感作が進み、微量で蕁麻疹や気道攣縮を引き起こす例も報告されています。「pH中性・低毒性であるか」も、溶剤アレルギー対策で欠かせない評価指標です。
接着剤溶剤の代用分解液の紹介
易解体性接着剤向けに開発された専用分解液は、エポキシ樹脂内に組み込んだジスルフィド(S-S)結合を選択的に切断し、常温~60℃の温和条件で接着界面を可逆的に解体します。

残渣を残さず完全に接着剤を除去することが可能
分解液は樹脂と一体設計されており、S-S結合を開裂させる還元剤と極性溶媒を最適比率で配合。100mgの硬化体を25℃で24時間、60℃なら4時間で完全溶解が可能です。アルミ、樹脂などの表面にも樹脂片や白化を残さず、超音波振動を併用すればタクトタイムを短縮できるため、量産ラインでも“研磨レス”の脱着プロセスを構築できます。
リサイクルが可能
剥離後の樹脂は、S-S結合を再架橋することで熱可塑化され、再成形・再接着が可能です。分解液自体も回収できます。これにより「接着剤→製品使用→分解→再接着剤」というクローズドループが成立し、溶剤リサイクルとCO₂削減を同時に実現できます。
基材へのダメージ少ない
ET-071シリーズは一層型(WO-002)と二層型(油層WO-003/水層WW-003)の2グレードを展開。分解液としてはいずれも中性で、金属酸化皮膜や樹脂のガラス転移点を超える高温処理を必要としません。剥離前後で表面性状の変化を抑えられ、光学レンズやパワー半導体モジュールのリワーク用途でも検討が進んでいます。分解液は低臭気で、PRTR制度の届出対象外の成分のみで調製されており、作業環境を大幅に改善します。
剥がしたいときに剥がせる「易解体性接着剤」
ナガセケムテックスが開発した「易解体性接着剤」は、通常環境下で良好な接着性能を発揮しながらも、従来の化学溶剤を使わず、特殊分解液によって温和な条件で容易に剥離し、接着剤残渣を除去できる製品です。母材へのダメージが少なく、安全かつ簡単に剥離できるため、部品のリサイクル性が向上します。さらに、特殊分解液自体も再利用可能であり、環境負荷の低減にも貢献します。

この易解体性接着剤は、エポキシ樹脂のネットワーク構造にジスルフィド結合(SS結合)などの可逆的な結合を組み込んでいます。専用分解液に室温~60℃で浸漬することで、特定の結合が選択的に切断され、分子が短鎖化して溶出する設計です。以下に、本製品の特長をご紹介いたします。
特長
- ●安全性 : 易解体性接着剤は非ハロゲン・非毒劇物・無溶剤設計で作業環境リスクを低減。
- ●マルチマテリアル対応 : 金属・樹脂・複合材の混合接合部でも母材を傷めず分解可能。
- ●循環利用 : 分解液は再利用でき、廃液コストを大幅に削減。
- ●量産適合 : 浸漬→水洗→乾燥のバッチ工程で治具レス処理が可能。EVバッテリモジュールや建材接合などの再資源化プロセスにへの適用が期待されています。
易解体性接着剤の分解原理やグレードラインアップ、分解液の運用方法などの詳細は、製品紹介ページをご覧ください。
