脂肪族エポキシ樹脂とは何か?
脂肪族エポキシ樹脂とは、脂肪族アルコールや脂肪族カルボン酸などをグリシジルエーテル(またはエステル)化することにより形成されるエポキシ樹脂のことです。
鎖状脂肪族エポキシ樹脂と環状脂肪族エポキシ樹脂の2種類があり、それぞれ脂肪族由来の柔軟性や耐候性などの特長を持ち合わせています。
本記事では、脂肪族エポキシ樹脂の特性や用途、他のエポキシ樹脂との比較を説明します。
主な特性
脂肪族エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂の特長に加えて、脂肪族が持つ特長や官能基数に応じてさまざまな特性を合わせ持ちます。
ここでは、代表的な特性について紹介します。
柔軟性と強靱性
脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟性と強靭性を持ち合わせた樹脂です。
芳香族エポキシが有する剛直な化学結合と比較し、脂肪族エポキシ樹脂の持つ化学結合は柔軟であるため、硬化した際の架橋構造中でも、ゴムのように作用します。
このことから、熱硬化樹脂に添加することで、柔軟性を付与でき、しなやかで曲げてもなかなか折れない樹脂を作り上げることも可能です。
耐薬品性
薬品への耐性は、脂肪族エポキシ樹脂が作る密な構造によって作られます。
エポキシ樹脂によって、架橋構造がしっかりと構成されることで、化学薬品や水による樹脂の変形を防ぎ、結果として耐薬品性を示すことにつながります。
耐熱性
高温特性を持ち、耐熱性を有することも知られています。
特に多官能基を持つ脂肪族エポキシ樹脂では、硬化する際に強固な3次元架橋構造を生み出すことから、耐熱性の向上が期待できます。
高温環境になる場所や用途での使用が可能です。
用途
さまざまな特性を持つ脂肪族エポキシ樹脂は、主に「コーティング」「接着剤」「反応希釈剤」「樹脂安定化剤」として使用されます。
それぞれの用途を詳しく紹介します。
コーティング
建築物や建設材料、文化財の保護や保存などを目的としたコーティングに脂肪族エポキシ樹脂はよく使用されます。
屋外では太陽の光や雨、風にさらされるため、コーティングの耐久性を高めることが重要であり、そのために脂肪族エポキシが広く利用されています。
また、脂肪族エポキシ樹脂のなかでも、特に水溶性エポキシ樹脂はフロアコーティングに使用可能です。
耐久性向上のみならず、VOC(揮発性有機化合物)の低減によって室内環境をよくしたりできます。
フロアコーティング剤の架橋剤として、人にも地球環境にもより優しいものと言えるでしょう。
接着剤
コンクリートや金属、ガラス、木材などさまざまな材料の接着にも、脂肪族エポキシ樹脂は使用されます。
プリント基板中の金属との接着には脂肪族エポキシ樹脂を接着剤としても使用可能です。
粘着剤のベース樹脂の官能基と脂肪族エポキシ樹脂が架橋することで、被着体への糊残りを減らすことができます。
【参照】https://group.nagase.com/nagasechemtex/denacol/application/#sec02
反応希釈剤
反応性希釈剤とは、高粘度の樹脂を希釈し、低粘度に調整し作業性をよくするために使用されるものです。
塗料やコーティング剤に追加して用いることで、粘度が高く時間がかかってしまう作業もスムーズに行うことができます。
その他には、希釈剤が反応性官能基を持つため、硬化時に溶剤の除去を行わなくても、硬化系内に取り込まれます。
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樹脂安定化剤
樹脂安定化剤は、樹脂の成型加工や使用の際に劣化を抑えるために使用します。
樹脂の劣化にはいくつか原因があり、塩素の発生と酸による腐食も原因のひとつです。
塩素系の樹脂から離脱する塩素キャッチャーとして機能し、樹脂劣化を防止したり、樹脂安定化剤が塩酸を補足することで、酸による劣化や腐食を防止したりできます。
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その他のエポキシ樹脂との比較
その他のエポキシ樹脂にはどのようなものがあるか、脂肪族エポキシ樹脂と比較してどのような特長かを紹介します。
ビスフェノール型エポキシ樹脂
一般的なエポキシ樹脂の中で、代表的な形で幅広い素材で用いられています。
ビスフェノールA型とビスフェノールF型があります。
概要
グリシジルエーテルタイプと呼ばれる樹脂で、塩基性触媒の元、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応によって得られます。
反応時に分子量の比率を変えることで、異なる形態のエポキシ樹脂が得られます。
特長
ビスフェノール型エポキシ樹脂の特長は、エポキシ樹脂全体に共通します。
以下の基本的な特長がエポキシ樹脂全体の特長です。
- 耐水性
- 耐腐食性
- 耐熱性
- 耐薬品性
- 耐湿性
- 耐候性
ビスフェノール型エポキシ樹脂は、硬化する際に副生成物が発生しないため、体積収縮が少なく寸法安定性が高いことや電気絶縁性に優れた特長があります。
その他には、酸やアルカリ、塩類に安定しているため、耐薬品性に優れています。
ノボラック型エポキシ樹脂
ビスフェノール型エポキシ樹脂と反応経路は類似しており、ビスフェノールではなくノボラックを使用した樹脂をノボラック型エポキシ樹脂と呼びます。
概要
グリシジルエーテルタイプの樹脂で、フェノールノボラックとエピクロロヒドリンの反応によって得られます。
架橋密度を改良できる構造を持つ樹脂として、開発されました。
フェノールをo-クレゾールに変えて作られる、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としても知られています。
特長
官能基の数が多いことからしっかりとした架橋構造を持ち、耐熱性や耐薬品性、絶縁性、硬度などに優れた特長を持ちます。
ノボラック型エポキシ樹脂の構造中には、VOCや溶媒が含まれていません。
これらの特長を活かして、特に半導体封止材料として使用されています。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂
アミンをグリシジル化したエポキシ樹脂で、4官能基を持つテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)や3官能基を持つトリグリシジル-p-アミノフェノールなどがあります。
概要
エピクロロヒドリンと芳香族アミンを反応させたグリシジルエーテル化合物で、多官能基を持ち反応性の高いエポキシ樹脂です。
欠点として、自己重合してしまう点があります。
硬化剤や触媒がなくても硬化してしまうため、使用期限が短くなってしまいます。
特長
室温で低粘度であり、分子量が比較的小さく、多官能性であることからガラス転移温度が高い特長を持ちます。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の持つC-N結合は、C-C結合やCーO結合よりも結合エネルギーが低く、熱分解温度が低いことも特長です。
脂肪族エポキシ樹脂, DENACOL
デナコールはナガセケムテックスが持つ高度で、他にはない有機合成技術を駆使して開発した、アルコール性水酸基とカルボン酸などを、グリシジルエーテル(もしくはエステル)化した特殊なエポキシ化合物のことです。代表的な製品に脂肪族エポキシ樹脂があり単官能から多官能まで、幅広いラインアップを持っておりそれぞれの特性を活かした選択が可能です。
特に、水溶性エポキシ化合物が多く開発されています。
これらはVOCフリーであるため、水系処理用途となる繊維や紙などの製造現場においても適しています。
水だけでなく、溶剤への溶解性も高いため、複数系統の架橋剤としても活用可能です。
デナコールは、単官能、2官能、多官能とエポキシ基の数によって3種類のタイプに分類されます。
【参照】デナコールとは
単官能タイプ
単官能タイプは、フェノールや2-エチルヘキサノールなどが母骨格となる単官能エポキシ化合物です。
接着改良剤や反応希釈剤などとして、ご使用いただけます。
単官能タイプは、特に架橋反応とは違う機能性の付与が期待できます。
2官能タイプ
2官能タイプは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタノール、ベンゼン-1,3-ジオールなどが母骨格となる2官能エポキシ化合物です。
水溶性樹脂架橋剤や電子材料向けの架橋剤などとして、ご使用いただけます。
2官能タイプの使用で、架橋密度の変化から脆さの改善としなやかさを持つ硬化剤が得られます。
多官能タイプ
多官能タイプは、ソルビトールやグリセリンなどが母骨格となる多官能エポキシ化合物です。
架橋剤や粘度調整剤、繊維の表面処理などとして、ご使用いただけます。
基材とエポキシ基の強固な3次元架橋構造により、寸法安定性や耐熱性、耐薬品性などの向上が期待できます。
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