デナコールの実験室

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  3. エポキシ樹脂の「架橋剤」としての用途について

1 架橋反応とは

架橋反応とは、橋を架けるように高分子同士を化学的に結合させることをいいます。高分子を架橋させることによって、化学構造がより強固なものとなり、物理的・化学的性質を改良させることができます。

架橋反応は、樹脂や塗料などの高分子材料に対して、耐水性や耐薬品性などのさまざまな物性を改良させるのに有効な方法です。

架橋反応には架橋剤が必要です。ただし、架橋剤は種類が膨大にあり、化学構造によって性状や物性が異なります。架橋させたい高分子の物性に応じた適切な架橋剤を選ばなければなりません。
架橋剤の反応性の要因となるのが官能基です。官能基は、架橋反応の起点となる部分であり、水酸基(‐OH)、カルボキシル基(‐COOH)、アミノ基(‐NH2)などの種類があります。また複数の官能基を持つ架橋剤もあり、官能基の数や種類によって形成される化学構造が変わるため、得られる物性も変わります。
架橋反応には、用途や目的にあった適切な架橋剤が必要になります。


2 エポキシ系架橋剤とは

エポキシ系架橋剤は、エポキシ基を2個以上もつエポキシ化合物のことであり、架橋剤として優れた特性を持ちます。エポキシ基は、炭素2つと酸素1つからなる三員環の構造をしており、非常に反応性が高いことで知られています。
エポキシ系架橋剤の身近な例や架橋反応、架橋密度についてご紹介します。

(1)エポキシ系架橋剤が使われている身近な例

エポキシ系架橋剤はさまざまな用途に使用されています。例えば、おむつに使用されるアクリル樹脂、保護フィルムなどの粘着剤、塗料など、さまざまな高分子材料の物性を改良させるために使われています。
他にも、ハンカチやシャツなどに防シワ性を付与する繊維用処理剤、樹脂に親水性や疎水性を付与する樹脂改質剤などにも使用されています。


(2)架橋反応はどのようにして起こるのか

エポキシ系架橋剤による架橋反応は、熱や光(紫外線)などによって、エポキシ基と対象となる高分子の(活性水素を持つ)官能基が結合することで起こります。また、エポキシ基の数や、エポキシ化合物の化学構造によって反応性が変わります。架橋反応の反応速度、反応生成物の諸性質は、使用するエポキシ化合物の構造、溶媒、反応条件等により異なります。


(3)架橋密度とは

架橋密度とは、架橋反応を起こした高分子内において、架橋の起点となっている部分(架橋点)が占める割合のことをいいます。架橋密度が高いと、より強固に結合し、耐久性や強度が向上します。一方、架橋密度が低いと、柔軟性が向上します。
架橋密度は、官能基の数や、架橋剤の分子の長さ(鎖長)を選択することで、コントロールすることができます。


3 架橋反応がもたらすメリット

架橋反応によって、高分子の分子量が増加するとともに化学構造が変化することで、耐水性や耐溶剤性などさまざまな物性を改良することができます。さらに柔軟性や水溶性などの機能を付与することも可能です。使用する架橋剤や架橋させたい化合物の特性によって異なりますが、架橋反応がもたらすメリットは豊富にあります。ナガセケムテックスが開発した特殊エポキシ化合物「デナコール」を例に、塗料の架橋剤として使用した場合の効果をご紹介します。

(1)基材との密着性の改善

水系アクリル樹脂または溶剤系アクリル樹脂を主剤とする塗料にデナコールを添加し、ブリキや6ナイロンの基材に塗布したところ、明らかに塗料の密着性に改善が見られました。デナコールがエポキシ系架橋剤として塗料の樹脂と架橋反応を起こしたため、基材との密着性が改善されたのです。


(2)塗膜の耐水性の改善

上記において耐水試験を実施した結果、デナコールを添加していない場合は外観が大きく変化しましたが、デナコールを添加した場合はほとんど変化が見られませんでした。架橋反応により、塗膜の耐水性が改善されたことを示しています。


(3)塗膜の耐溶剤性の改善

同様に耐溶剤性についても、デナコールを添加した場合に改善が見られることがわかっています。


【参照】塗料用途でのデナコールの効果について -架橋剤比較実験-



4 架橋反応の事例

具体的な架橋反応の事例をご紹介します。図は水溶性エポキシ化合物と水系樹脂の架橋反応を表したものです。水溶性エポキシ化合物の両端にあるエポキシ基と、水系樹脂の官能基であるカルボキシル基(‐COOH)が、付加反応を起こして架橋構造を形成します。

水溶性エポキシと水系樹脂との架橋反応
図1 水溶性エポキシと水系樹脂との架橋反応

他にも、アルコール、フェノール、酸無水物、1級・2級アミン、無機酸、水などの化合物とも、同様に架橋反応を起こします。


エポキシ基の反応性
図2 エポキシ基の反応性

5 エポキシ系架橋剤の選定方法

エポキシ系架橋剤を選ぶ際の選定基準は、以下の5点です。架橋させたい化合物の物性や、架橋することで改良したい物性など、用途や目的に沿ったエポキシ系架橋剤を選択する際の参考にしてください。

(1)水溶性か疎水性
(2)どのような機能を付与させたいか(柔軟性、膜の硬度、耐水性、耐溶剤性、密着性など)
(3)反応方法(熱硬化時の反応温度や光硬化時の波長など)
(4)触媒の種類
(5)自己架橋かそうでないのか


6 デナコールのご紹介

ナガセケムテックスが開発したデナコールは、多種多様な用途に対応するため、豊富なラインアップがあります。大まかに分類すると、エポキシ基の数によって、多官能、2官能、単官能の3種になります。

多官能タイプ

多官能タイプは、ソルビトールやグリセリン、ペンタエリスリトールなどを母骨格とした多官能のエポキシ化合物で、樹脂の架橋剤、塗料の密着性向上、繊維・紙の改質などにご使用いただけます。多くは水溶性で、繊維や紙の製造など水周りの作業に適しており、VOCフリーなどの環境に優しい架橋剤です。製品名は「EX-300、400、500、600シリーズ」になります。

多官能タイプ

2官能タイプ

2官能タイプは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヘキサンジオール、フタル酸などを母骨格としたエポキシ化合物で、高水溶性架橋剤、樹脂改質剤などにご使用いただけます。多くは低粘性であり、反応性希釈剤としても幅広く応用可能です。製品名は「EX-200、800、900シリーズ」になります。

2官能タイプ

単官能タイプ

単官能タイプは、2-エチルヘキサノール、フェノールなどを母骨格とした単官能エポキシ化合物で、反応性希釈剤、樹脂安定剤などにご使用いただけます。親水性、疎水性の両方があり、使用目的、状況に応じて使い分けることが可能です。製品名は「EX-100シリーズ」になります。

単官能タイプ

以下に、代表的な製品の特長と物性値をご紹介いたします。用途や目的に応じてご使用ください。

EX-614B

本製品は、ソルビトールポリグリシジルエーテルという多官能脂肪族エポキシ化合物です。強固な3次元架橋構造を形成し、寸法安定性や耐熱性、耐薬品性の向上が期待できます。水溶性、高反応性があり、水系の架橋剤や繊維の表面処理剤としてご使用いただけます。代表的な物性値としては、エポキシ当量173(g/eq.)、粘度5,000(mPa・s)、全塩素含有量10.1%、水溶率94%となっています。

DENACOL EX-614Bの構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
173 5,000 10.1 3 94 20kg、200kg

カタログ(デナコール EX-614B)

EX-313

本製品は、グリセロールポリグリシジルエーテルという多官能脂肪族エポキシ化合物です。EX-614Bと同様に多官能タイプでありながら、低粘度であることが特長です。水溶性、高反応性があり、水系塗料・粘着剤の架橋剤、繊維の表面処理剤としてご使用いただけます。代表的な物性値としては、エポキシ当量141(g/eq.)、粘度150(mPa・s)、全塩素含有量9%、水溶性99%となっています。

DENACOL EX-313の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
141 150 9 10 99 20kg、220kg

カタログ(デナコール EX-313)

EX-810

本製品は、エチレングリコールジグリシジルエーテルという2官能脂肪族エポキシ化合物です。架橋密度が低下して脆さが改善され、より柔軟な硬化物が得られることが特長です。水溶性、低粘度・低塩素、柔軟性があり、水系樹脂用架橋剤、親水性付与剤、柔軟性付与剤としてご使用いただけます。代表的な物性値としては、エポキシ当量113(g/eq.)、粘度20(mPa・s)、全塩素含有量0.6%、水溶性100%となっています。

DENACOL EX-810の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
113 20 0.6 20 100 20kg、220kg

カタログ(デナコール EX-810)

【参照】製品紹介(選定ガイド)


7 モデル組成

デナコールの推奨添加量は、エポキシ基と官能基の物質量比(モル比)が1対1となります。アミノ基、カルボキシル基、水酸基などベース樹脂の官能基とエポキシ基が当量になるよう添加してください。
また、添加量の計算方法は、図の式のとおり、カルボキシル基の当量(mgKOH/g)である「酸価」と、アミノ基の当量(mgKOH/g)である「アミン価」の合計値と、エポキシの当量(g/eq.)である「WPE」から求めることができます。
モデル組成としてご参照ください。

推奨添加量
図3 推奨添加量
添加量の計算方法
図4 添加量の計算方法