デナコールの実験室

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  3. エポキシ樹脂の「樹脂安定剤」としての用途について

樹脂安定剤とは何か

プラスチックは、元々熱や光に対して不安定であり、成形加工や太陽光などによって、酸化や劣化が起こります。樹脂安定剤は、酸化や劣化を抑制し、樹脂の耐久性を向上させるために使用される添加剤です。樹脂安定剤は、PVC樹脂(塩化ビニル樹脂)を含む多くの種類の樹脂に添加されています。PVC樹脂など塩素系樹脂の場合、熱や光によって水素や塩素が脱離し、塩化水素が発生して連鎖的な分解を引き起こします。また発生した塩化水素を捕捉することで、分解を抑制することができます。なお、塩化水素などを捕捉する化合物のことをハロゲンキャッチャーと呼びます。


樹脂安定剤の種類

樹脂安定剤にはさまざまな種類があります。代表的なものをご紹介します。

ハロゲンキャッチャー(酸捕捉剤)

ハロゲンキャッチャーとは、酸捕捉剤のことであり、樹脂中に含有される酸を効果的に捕捉し、安定な樹脂を製造することができる添加剤です。ハロゲン化合物(特に塩素を多く含む樹脂など)の熱分解や光分解から生成される酸性物質、特に塩化水素(HCl)を中和し、捕捉するために使用される化合物です。

ハロゲンキャッチャー(樹脂安定剤)

熱・湿度安定剤

熱安定剤は、熱によって起こる劣化を防ぐために使用されるものです。湿度安定剤は、高湿度や水分の存在下での樹脂やポリマー材料の性能や寿命を保持・向上させるための添加物です。湿度安定剤は、水分の浸透や吸収を抑制することで、樹脂や材料の物理的・化学的劣化を最小限に抑えるために使用されます。

紫外線安定剤

紫外線安定剤は、樹脂を紫外線劣化から防ぐために使用される添加剤です。ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物などの種類があります。ただし、一部に環境への有害性が指摘されており、法令で規制されるものもあります。

酸化防止剤

酸化防止剤は、大気中の酸素による酸化や劣化を防止するための添加剤です。樹脂は、酸化により、強度の低下や割れ目の発生、着色などを起こすことがあり、それらを防ぐために使用されます。フェノール系、リン酸エステル系、硫黄系などがあります。


樹脂安定剤の用途

PVC樹脂の安定化

PVC樹脂に使用される代表的な安定剤は、カルシウムや亜鉛、スズ、鉛といった金属があります。ただし、鉛は、毒性の懸念から使用量が減少しているため、カルシウムー亜鉛系の安定剤の需要が伸びている状況です。さらに安定剤の機能を強化するために、エポキシ可塑剤などが添加されることもあります。エポキシ可塑剤は、可塑剤であるとともに耐熱・耐光性の向上に有効で、バリウムー亜鉛系、カルシウムー亜鉛系の安定剤に不可欠となっています。PVC樹脂は、加熱や軟化によって加工されますが、170℃から180℃程度で分子中の塩素や水素が脱離し、塩化水素が発生します。分解が始まると分子構造が不安定になり、塩化水素の脱離が促進されて連鎖的に分解が進行します。加工時における初期の塩化水素の脱離を防ぎ、分解の連鎖反応を抑止するために、樹脂安定剤が添加されます。

PBT樹脂の安定化

PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂とは、ポリエステル系のエンジニアリングプラスチックの一種です。結晶性が高いため、見た目は半透明で、かつ機械的性質や耐薬品性、電気的性質に優れる特長があります。ただ、分子構造の中にエステル基を持つため、加水分解を起こしやすい欠点があります。射出成形時に水分が残っていると、成形時の温度上昇に伴い機械的性質が低下するおそれがあります。したがって、PBTには、通常、耐加水分解性や耐熱衝撃性を向上させるため、ポリオレフィン系の改質剤が添加されます。PBTの用途は、電機部品や自動車部品など幅広く、特に自動車部品としては、電気コネクタやライト部品など電装品に多く使用されています。


ハロゲンキャッチャー(酸捕捉剤)の作用メカニズム

ハロゲンキャッチャーの作用メカニズムは、次の通り進行します。

  1. 1.樹脂の分解開始
  2. 2.劣化により塩素が脱離
  3. 3.塩化水素発生
  4. 4.ハロゲンキャッチャーが塩化水素を中和
  5. 5.分解反応を抑制
  6. 6.樹脂の安定化の継続

PVC樹脂など塩素系樹脂の場合、まず熱や光などによって、樹脂の分解が起こり、塩化水素などが発生します。安定剤がない場合、分子構造が不安定になり、塩化水素の脱離が促進されて連鎖的に分解が進行しますが、ハロゲンキャッチャーの存在により、脱離した塩化水素を中和し、分解反応を抑制します。こうしたハロゲンキャッチャーの作用によって、継続的に樹脂を安定化させることができるのです。


樹脂安定剤を選択する際に考慮すべきポイント

適切な樹脂安定剤を選択することで、求める樹脂の機能や特性を得ることができます。樹脂安定剤を選ぶ際に考慮すべきポイントをご紹介しますので、参考にしてください。

ポリマーとの適合性

機能や性質を改善させたい樹脂(ベースポリマー)と親和性が良い樹脂安定剤を選ぶ必要があります。樹脂安定剤によって、疎水性や親水性などの特性が異なり、粘度なども変わるため、化学構造や物性を把握しておくことが重要です。また、添加剤同士の相互作用も考慮すべきポイントの一つです。

求める機能や特性

樹脂安定剤を使用する目的は、ベースとなる樹脂の安定性を向上させることであり、熱や光(紫外線)、湿度など、不安定化させるさまざまな要因に対応する必要があります。一方、使用する用途や環境によっては、他の機能や特性も同時に求められる場合もあり、樹脂安定剤を添加することで、これらの機能などが損なわれないようにしなければなりません。例えば、分子量はどれくらいがいいか、塩素量はどの程度許容されるか、脂肪族か芳香族かなど、樹脂安定剤を選択する際に考慮することが重要です。


デナコール|塩素系樹脂の長寿命化

ナガセケムテックスでは、「デナコール」というエポキシ系化合物の商品を多種多様に取り揃えています。樹脂安定剤としては、ハロゲンキャッチャーや耐加水分解性の改善にご利用いただける商品をご用意しています。以下に、代表的な商品の特長や物性値をご紹介いたします。用途や目的に応じてご使用ください。

ハロゲンキャッチャー(酸捕捉剤)

DENACOL EX-121

本製品は、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルという単官能エポキシ化合物です。特長は、疎水性、低粘度、低塩素であることであり、樹脂安定剤のほか反応性希釈剤としてご使用いただけます。代表的な物性値は、エポキシ当量187(g/eq.)、粘度4(mPa・s)、全塩素含量0.01%、色価10(APHA)、水溶率は不溶となっています。

DENACOL EX-121の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
187 4 0.01 10 不溶 16kg、180kg

カタログ(デナコール EX-121)

DENACOL EX-141

本製品は、フェニルグリシジルエーテルという単官能エポキシ化合物です。特長は、疎水性、低粘度、低塩素であることであり、樹脂安定剤のほか反応性希釈剤としてご使用いただけます。代表的な物性値は、エポキシ当量151(g/eq.)、粘度8(mPa・s)、全塩素含量0.02%、色価10(APHA)、水溶率は不溶となっています。

DENACOL EX-141の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
151 8 0.02 10 不溶 18kg、200kg

カタログ(デナコール EX-141)

DENACOL EX-192

本製品は、C12,C13混合アルコールグリシジルエーテルという単官能エポキシ化合物です。特徴としては、疎水性、低粘度であることで、疎水性付与剤をはじめ、樹脂安定剤や反応性希釈剤としてご使用いただけます。代表的な物性値としては、エポキシ当量281(g/eq.)、粘度8(mPa・s)、全塩素含量4%、色価10(APHA)、水溶率は不溶となっています。

DENACOL EX-192の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
281 8 4 10 不溶 15kg、170kg

カタログ(デナコール EX-192)

耐加水分解性

DENACOL EX-721

本製品は、フタル酸ジグリシジルエステルという二官能エポキシ化合物です。特長は、疎水性、耐熱性、高反応性であり、樹脂安定剤のほか構造材料としてご使用いただけます。また耐加水分解性の改善が期待できます。PBT樹脂に本製品を1%添加したところ、プレッシャークッカー(120℃、100%RH)による加水分解促進試験を実施した場合でも、引張強度や破断点伸びに大きな変化は見られませんでした。代表的な物性値は、エポキシ当量154(g/eq.)、粘度980(mPa・s)、全塩素含量0.9%、色価2(APHA)、水溶率は不溶となっています。

DENACOL EX-721の構造式

SWIPE

エポキシ当量(g/eq.) 粘度
(mPa・s)
全塩素含量(%) 色価 (APHA) 水溶率(%) 包装
154 980 0.9 2 不溶 20kg

カタログ(デナコール EX-721)