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伸縮性導電性コーティング材‧デナトロン

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2025/03/11

電子デバイスや電池などの開発・製造において、伸縮性のある導電性コーティング材は注目を集めています。本記事では、伸縮性導電性コーティング材「デナトロン」の特徴や用途、そして伸縮性導電性コーティング材の基礎知識について詳しく解説します。

デナトロンの基礎

導電性コーティング材には導電性が高い銀や銅、高い透明性と耐久性をもつITOなどが使われています。しかし、電気をよく通す金属膜はクラックが入りやすく、導電経路が途切れてしまいます。ITOは製造コストが高い・将来の原料供給が不透明というデメリットがあり、代替材料開発が進んでいる状況です。

一方、デナトロンはPEDOT:PSSという導電性ポリマーをベースにしており、導電性が非常に高く、薄膜で使用できるため、成膜するとほぼ見えなくなります。水系または水 / アルコール系材料で生体適合性があるため、人や環境に優しい伸縮性導電性コーティング材です。

デナトロンの基礎

用途

デナトロンは、その優れた伸縮性、導電性、透明性により、従来の導電性材料では実現が難しかった分野にも応用が可能です。ここでは、デナトロンが活躍する具体的な用途を、事例を交えてご紹介します。

センサー電極

加工性、伸縮性に優れているため、クラックが入りやすい曲面にも使用できます。
成膜後の形状加工が可能であり、3Dスイッチへの応用も可能です。
センサー電極は、画面の内容を美しく表示するために目に見えない程度の透明導電体である必要がありますが、デナトロンであれば外観を損なわずに導電性を付与できます。

「簡単なウェットプロセスでタッチセンサーを貼り付けたい。」
「タッチセンサーを曲げて球面に貼り付けられない。」
「センサーの配線パターンが見えるのが気になる。」
などの課題を解決できます。

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センサー電極

フレキシブルディスプレイ

優れた伸縮性により、フレキシブルディスプレイの湾曲や折り曲げにも対応できます。
デナトロンは高い透明性を持つため、ディスプレイの視認性を損ないません。また、塗膜の表面抵抗率は102~103Ω/sq.を発現するので、高感度なタッチ操作を実現できます。塗膜物性も細やかなカスタマイズが可能です。
フレキシブルで伸縮するデバイスにタッチセンサーを取り付けたい場合に最適です。

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フレキシブルディスプレイ

ウェアラブルエレクトロニクス

PEDOT:PSSは親水性、生体適合性があり、安全な物質です。金属アレルギーの心配もないので、人に直接触れるような生体センサーに最適です。

繊維にコーティングし、導電性繊維としてスマートテキスタイル(新しい機能を備えたテキスタイル素材)にも活用できます。配合技術にて、耐洗濯性なども付与できます。

PEDOT:PSSは細胞毒性などが見られず、人工筋肉や人工網膜など医療用途にも適応が期待されている、人体に優しい材料です。

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ウェアラブルエレクトロニクス

特徴

従来の導電性材料では実現が難しかった、伸縮性と導電性を両立させたデナトロン。
この章では、次世代デバイスの開発に貢献する、デナトロンならではの優れた特徴について詳しく解説します。

  1. 高い透明性

    高い透明性

    デナトロンのベースとなる導電性ポリマーのPEDOT:PSSは、可視光領域で特徴的な吸収が少なく、薄膜で使用可能なため透明性の高い導電膜が得られます。
    デナトロンを塗布して形成される導電膜は、非常に薄くても高い導電性を維持し、透明性も損なうことがありません。

  2. 湿度依存なし

    湿度依存なし

    デナトロンは、電子伝導型の導電機構により湿度の影響を受けない安定した導電性が得られます。
    湿度に依存しないため、幅広い環境下で安定した動作が求められるデバイスへの応用にも最適です。

  3. 優れた加工性

    優れた加工性

    デナトロンは、様々な印刷・コーティング方式に対応できる点が大きな強みです。
    グラビア印刷、スリットコーティング、スクリーン印刷など、お客様の求める形状・サイズ・用途に最適な方法でデナトロンを使用することができます。

  4. 生体適合性

    生体適合性

    PEDOT:PSSは親水性で細胞毒性が低いことが報告されている安全性の高い物質です。*1 金属アレルギーの心配もないので、人に直接触れるような生体センサー、スマートテキスタイルなどの用途に最適です。

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これまでの導電性材料、特に金属膜は、歪みが生じるとクラックが発生し、導電性が失われてしまうことが課題でした。しかし、デナトロンSPSシリーズなら、その心配は必要ありません。
SPSシリーズは柔軟性・伸縮性に優れた導電性ポリマーを採用しており、ゴムのように伸び縮みする素材にもぴったりと追従し、安定した導電性を発揮します。

フレキシブルディスプレイやウェアラブル端末といったエレクトロニクス業界では、形を変えるデバイスの開発が急速に進んでいます。この進化を支えるのが、デナトロンのように自在に形を変えられる導電材料です。
ナガセケムテックスは、これからも新しい素材の開発に挑戦し続けてまいります。デナトロンSPSシリーズにご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ
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フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材の基礎

デナトロンは従来の導電性材料とは異なり、曲げたり伸ばしたりしても導電性を維持できる画期的なコーティング材ですが、そもそもフレキシブル/伸縮性導電性コーティング材とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材の基礎について解説します。

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材とは?

従来の電子デバイスは、硬く柔軟性のない素材がほとんどでした。しかし、近年注目を集めているフレキシブルディスプレイやウェアラブルセンサーといった次世代デバイスには、曲げたり、伸ばしたりしても壊れず、その状態でも電気を通す 特殊な素材が必要となります。

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材は、このようなニーズに応えるために開発された、柔軟性と導電性を兼ね備えた 画期的なコーティング材です。
フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材にはいくつか種類があり、金属微粒子、金属ワイヤー・メッシュ、アクリルエラストマー、導電性ポリマーなどの材料が使われています。
このコーティング材を使い、適切な処理を施すことで、フレキシブルな基材上に導電性をもたせることができます。

従来の導電材料では不可能であった曲面や可動部への印刷も可能になるため、電子デバイスやスマートテキスタイルなどの設計の自由度を大きく広げるコーティング材なのです。

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材とは?

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材の特徴

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材は、他のコーティング材にはない特徴を備えています。ここでは、フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材の3つの主要な特徴について解説します。

柔軟性

従来の導電性材料、例えば金属は、曲げたり伸ばしたりすると、割れたり剥がれたりすることがありました。また、金属電極を製造する方法として、粉末状の電極材料を金属機材に塗工するドライコーティングがありますが、ドライコーティングは3D形状への対応が得意ではありません。
しかし、フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材であれば、3D形状にも追従し導電性を維持することができます。中でも導電性ポリマー「PEDOT:PSS」は、他の導電性ポリマーに比べ安定性が優れています。

導電性

変形しても導電性を維持できるため、従来の電子部品では不可能であった形状や構造を持つデバイスへの応用が期待されています。
ポリチオフェン系導電性ポリマー「PEDOT:PSS」は、ポリマーの重合条件によって導電率の調節が可能です。
また、透明性が高く、デバイスの外観を損なわずに導電性を付与できるため、タッチパネルやディスプレイへの応用が進んでいます。

印刷可能

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材は、スクリーン印刷やインクジェット印刷といった一般的な印刷技術を使用して、さまざまな基材に均一に塗布することが可能です。
ウェアラブルセンサーといった、人が身に着けるものにも使われています。
PEDOT:PSSをベースとしたデナトロンは、金属を含んでいません。金属アレルギーの心配もないので、人に直接触れるようなウェアラブルセンサーに最適です。

推奨製品

デナトロンシリーズは用途に応じてさまざまな商品をラインナップしています。その中でもフレキシブル/伸縮性のある導電性コーティングに適した商品を紹介します。

PT-802H

「デナトロン SP-801」はフレキシブル/伸縮性のある導電性コーティング材です。導電性ポリマー(PEDOT:PSS)を使用しているため透明度が高く、電気抵抗の低いペースト状のコーティング材です。表1に液物性を示します。

外観 濃青色
主な成分 導電材・バインダー樹脂
主な溶剤 水・プロピレングリコール
pH 2–3
粘度 1,000–3,000 mPa·s
貯蔵安定性(1〜25℃) 4か月以上

表1.SPS-801の液物性

塗布前(ベースト状態)は濃い青色をしていますが、塗布・成膜後には透明になります。使用している水系溶剤は、樹脂などの有機化合物を溶かす特性を持ちながら、毒性は低い特徴をもつ溶剤を使用しています。また、スキージを用いてスリットからコーティング材を押し出して印刷するスクリーン印刷に適した粘度をもたせています。保存条件を守れば4か月以上の貯蔵が可能です。

デナトロンを基材に印刷するためには、まずディスパーなどの撹拌機を使用して十分撹拌します(1,500rpmにて10分程度)。その後、スクリーン印刷機にセットして印刷します。表2に示す塗膜の作成条件も参考にしてください。

推奨塗布条件 スキージ硬度:70〜80°、スキージ角度:50〜80°
速度 200〜350mm/s、クリアランス2〜4mm
メッシュ #200–460
推奨基材 PET、PMMA(アクリル樹脂)、PCなどのプラスチックやガラス
推奨塗布条件 温度:80℃〜130℃、乾燥時間:1〜5分

表2.塗膜の作成条件

FAQs

お客様からよく寄せられる質問と回答をご紹介します。

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材はどんな用途に使われますか?

フレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイス、電子ペーパー、フレキシブルディスプレイなど、基材の形状や動きに合わせて伸縮する必要がある製品に使われています。
また、リチウムイオンバッテリー、全固体電池やコンデンサー、帯電防止フィルムなど、フレキシブルなデザインが求められる分野で導電性コーティング材が活躍しています。

フレキシブル/伸縮性導電性コーティング材の代表的な材料は何ですか?

1. 金属微粒子、金属ワイヤー・メッシュ
銀、銅、ITO(Indium Tin Oxide:スズドープ酸化インジウム)といった導電性を持つ金属の微粒子やナノワイヤー状もしくはメッシュ状の金属を溶剤中に分散させることで、導電性を付与しています。

2. カーボンナノチューブ
PEDOT:PSSとは違い、特殊な分散剤や分散機を使って塗料化しています。
ナノサイズなので透明性が高いのが特長です。
またC-Cで結合されているので耐候性に優れています。

3. 導電性ポリマー
ポリチオフェン系、ポリアセチレン系、ポリアニリン系、ポリピロール系があります。
中でも、PEDOT (Poly(3,4-EthyleneDiOxyThiophene):ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)とPSS (Poly(4-StyreneSulfonate):ポリスチレンスルホン酸)から成るPEDOT:PSSは、導電性高分子の中で最も安定な材料として知られています。

フレキシブル/伸縮性のある導電性コーティング材を塗布できる材質を教えてください

●樹脂
ポリエチレンテレフタレート (PET) やアクリル樹脂 (PMMA) 、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)などの樹脂に使用できます。

●ゴム系材料
シリコーンやポリウレタンなどのゴム系材料に使用できます。

●繊維
不織布、衣類に使われる布にも使用できます。

●金属
金属にも使用できますが、金属は錆びることがありますので、液が直接接触する部分に関しては、ステンレスやメッキ、樹脂ライニングなどの防錆対策をお勧めいたします。

●ガラス
ガラス基材にも高い密着性を発揮し、均一な導電層を形成することが可能です。

参考文献
*1:Biomed. Mater. 4 (2009) 045009, M Asplund et al.

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