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スクリーン印刷向け導電性コーティング材‧デナトロン
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デナトロンとは
デナトロンは導電性コーティング材で、PEDOT:PSSという導電性ポリマーがベースのType-Pと、カーボンナノチューブ(CNT)がベースのType-Cがあります。透明電極や帯電防止といった用途が想定されており、目的によって使い分けられます。
デナトロン Type-Pのラインアップの中には、タッチパネルの透明電極や生体センサーの電極への使用を想定し、スクリーン印刷用に設計した製品があります。

デナトロンの用途
タッチパネル・タッチスイッチの電極
スクリーン印刷向けデナトロンによって形成される膜は金属スパッタ(ITO)膜と比較して成形の自由度が高い特徴があります。曲面や球面など、ITO膜ではクラックが入る部分にも使用できるのがメリットです。また、0.03μm程度の薄膜で十分な導電性を発揮するため、タッチスイッチを採用したくても面積が狭く、コストが合わないような部分にも塗布できます。
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生体センサー向け電極
デナトロンは親水性で生体適合性を有する導電性コーティング材です。デナトロンの原料であるPEDOT:PSSは、動物(げっ歯類)細胞を用いた実験でも細胞毒性反応がないことが確認されているため、生体適合性が高く、肌に直接触れるセンサーにも適用可能です。 *1 金属アレルギーの心配もありません。
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有機ELデバイス向け導電層
有機ELはスマートフォンや大型ディスプレイなどさまざまな場面で使用されています。デナトロンは曲面での使用が可能なため、フォルダブルタイプのスマートフォンなど「曲がるディスプレイ」の導電層にも対応可能です。また、ディスプレイ上にスイッチが必要な場合でも、デナトロンを電極として使用することで3D形状のスイッチを作成可能です。
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デナトロンの特徴
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高い透明性
デナトロンは成膜すると高い透明性をもちます。可視光領域での吸収が少ないこと、そして薄膜で使用可能であることが、透明性が高くなる理由です。これは塗布する製品の外観を損なわずに必要な機能(導電性)を実現するために非常に有効です。
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幅広い用途
デナトロンは導電以外にも、帯電防止(静電気防止)など幅広い用途に活用可能です。その理由は幅広い表面抵抗率(102〜1010Ω/sq.)にあります。表面抵抗率とは単位面積あたりの抵抗値のことで電気を通す(102Ω/sq.程度)〜電気を通しにくい(1010Ω/sq.)まで用途に合わせて導電レベルを調整可能です。
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優れた加工性
デナトロンはグラビア印刷(凹版印刷)やスクリーン印刷など、さまざまな方法で対象物への印刷が可能です。また、成膜後の屈曲や伸縮も許容できるため、ゴムや薄いフィルムなど変形する物質に塗布しても導電性を発揮します。
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高い生体適合性
デナトロンの原料であるPEDOT:PSSは酸性でありながら細胞毒性や、皮膚刺激のない材料として知られていることから、生体適合性が高く直接肌に取り付けるセンサーにも使われています。*1
デナトロンをスクリーン印刷する方法
【印刷手順】
1.印刷パターンに沿ってメッシュ孔が開いたスクリーンプレート(版)にデナトロンをセットします。
2.セットしたフィルムに、スクリーンプレートの孔を通過したデナトロンが印刷されます。
3.送風乾燥機を用いて80〜140℃で乾燥させます。
詳細は上記の動画をご覧ください。
推奨製品
デナトロンシリーズは用途に応じてさまざまな商品をラインナップしています。その中でもスクリーン印刷に適した商品を紹介します。
SP-801
「デナトロン SP-801」はスクリーン印刷に対応した導電性コーティング材です。導電性ポリマー(PEDOT:PSS)を使用しているため透明度が高く、電気抵抗の低いペースト状のコーティング材です。表1に液物性を示します。
外観 | 濃青色 |
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主な成分 | 導電材・バインダー樹脂 |
主な溶剤 | 水・水系溶剤 |
pH | 2–3 |
粘度 | 1,000–3,000 mPa·s |
貯蔵安定性(1〜25℃) | 6か月以上 |
表1.SP-801の液物性
塗布前(ベースト状態)は濃い青色をしていますが、塗布・成膜後には透明になります。使用している溶剤は水と水系溶剤です。使用している水系溶剤は、樹脂などの有機化合物を溶かす特性を持ちながら、毒性は低い特徴をもつ溶剤を使用しています。また、スキージを用いてスリットからコーティング材を押し出して印刷するスクリーン印刷に適した粘度をもたせています。保存条件を守れば12か月以上の貯蔵が可能です。
デナトロンを基材に印刷するためには、まずディスパーなどの撹拌機を使用して十分撹拌します(1,500rpmにて10分程度)。その後、スクリーン印刷機にセットして印刷します。表2に示す塗膜の作成条件も参考にしてください。
推奨塗布条件 | スキージ硬度:70〜80°、スキージ角度:50〜80° |
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速度 | 200〜350mm/s、クリアランス2〜4mm |
メッシュ | #200–460 |
推奨基材 | PET、PMMA(アクリル樹脂)、PCなどのプラスチックやガラス |
推奨塗布条件 | 温度:80℃〜120℃、乾燥時間:1〜5分 |
表2.塗膜の作成条件
スクリーン印刷向け導電性コーティング材 (導電塗料)の基礎知識
導電性コーティング材 (導電塗料)とは?
導電性コーティング材 (導電塗料)とは、電気を通す性質を持つ特殊なコーティング材です。このコーティング材には、導電性の微粒子(金属やカーボンナノチューブなど)が混ぜられており、乾燥後の塗膜が電気を通すことで、様々な電子部品やデバイスの製造に利用されます。スクリーン印刷技術を用いることで、精密なパターンや回路を作成することが可能であり、電子機器の小型化や高性能化に貢献しています。
導電性コーティング材に使用される材質
かつてはATMなど一部でのみ使用されていたタッチパネルですが、近年ではスマートフォンやタブレットなど、私たちの生活の中で身近なものになりました。また、自動車のインストゥルメンタルパネル(センターパネル)の物理的なスイッチが減る一方で、タッチスイッチが増えて表面に触れるだけでスイッチングできるデバイスがますます増えています。
一言にタッチパネルといっても求められる特性はさまざまで、それに合わせた材質が使用されています。以下では、タッチパネルの電極使用される代表的な材質を紹介します。
PEDOT:PSS
PEDOT:PSSは導電性ポリマーで作られており、溶剤を揮発させるだけで使用できるのが特徴です。そのため、耐熱温度が70℃程度のフィルムにも使用可能です。他の材質に比べて耐久性がやや劣るという懸念点がありますが、配合技術により耐久性を向上可能で、最終的には他の材質と比べて遜色ない耐久性を実現します。
平滑性は比較的高い方ですが、これも配合技術でさらなる向上が可能です。他には、大面積化に対応できて形状変化への追従も可能という特徴があります。導電性や透明性についても、他の材料に比べて遜色ありません。

カーボンインク
カーボンインクはカーボンナノチューブ(CNT)とカーボンブラックにわかれます。いずれも導電性や耐光性の高さが特徴です。ただし、両者には差があり、導電性についてはCNTの方が高いといわれています。また、CNTは凝集しやすい性質がありますが、これをうまく分散させることにより導電性の調整が可能です。CNTには単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)があります。導電性能とコストで最適なカーボンを選択する必要があります。

銀ナノワイヤ
銀ナノワイヤは銀を素材としたナノワイヤーで導電性のある材料です。導電性がよく屈曲性もあるため、耐久性と平滑性がやや劣ること以外はPEDOT:PSSと似た性質をもちます。大面積化や形状変化への対応も可能です。
ただし、銀ナノワイヤ同士を密着させる都合上、高温での処理や加圧が必要になります。また、重ねる膜(オーバーコート剤)が薄い場合は、ワイヤ末端の尖りにより膜を傷つける点が懸念されます。

銀メッシュ
銀メッシュは銀によってメッシュ状に織られたもので、銀ならではの高い導電性と、高い透明性や屈曲性が特徴の材料です。耐久性が高いのも特徴で、ほかには大面積化や形状変化への対応も可能です。
ただし、メッシュによるクロスポイント(織り目)の高さがあり、平坦性や平滑性は劣る傾向にあります。表面の肌触りにこだわるデバイスには向いていないかもしれません。

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参考文献
*1:Biomed. Mater. 4 (2009) 045009, M Asplund et al.