Denatron Museum / 研究レポート
PEDOT:PSSの熱電変換材料応用
HOME > Denatron Museum > 研究レポート > PEDOT:PSSの熱電変換材料応用
名古屋工業大学大学院 工学研究科
准教授 岸直希
概要
有機系熱電変換材料は柔軟な熱電変換材料として期待されています。導電性高分子材料であるPEDOT:PSSは高い導電性を持ち代表的な有機系熱電変換材料として世界中で活発に研究が行われています。我々はPEDOT:PSSに対し界面活性剤をはじめとする材料の添加などの処理を施しその効果を明らかとすることを通し、特性の高い熱電変換材料の創製に取り組んでいます。
本文
工場の製造装置、生活空間の家電の裏側など、私たちの身の回りには周囲より温度が高くなっている箇所がたくさん存在しています。この温度が高くなっている箇所にある熱的なエネルギーのほとんどは、現状では、特に利用されることなく周辺に排熱として放出されています。この未利用の排熱を活用する手段として熱電変換発電があります。熱電変換発電はゼーベック効果を原理とし、熱電変換材料に形成された温度差から直接電力を得ることができる発電方法です。
図1に熱電発電素子の構造の例を示します。p型、n型の熱電変換材料を直列に接続した構造を持ち、熱源に対し片側の面を接触させ、反対面との間で温度差が生じるようにします。素子構造から熱電変換材料に対して温度差が形成されるので、ゼーベック効果により図1の向きの熱起電力が発生します。この素子に負荷を接続し回路とすることにより電流が流れ発電として活用することができます。

図1. 熱電発電素子の構造の例
熱電変換材料の熱電特性は一般的に無次元性能指数ZTを用いて表します。
ZT = S2σT κ
S、σ、T、κは、それぞれゼーベック係数、導電率、温度、熱伝導率です。熱電変換特性を高めるためには、ゼーベック係数および導電率をより高く、熱伝導率をより低くすることが必要となります。
熱電変換材料として有機系熱電変換材料が注目されています。有機系熱電変換材料は柔軟性が高く(図2)、曲面を持つ熱源からの発電に用いることが期待されています。有機系熱電変換材料として、ポリチオフェン、ポリピオール、ポリアニリンなどの導電性高分子の熱電変換特性が報告されています。その中でもチオフェン系導電性高分子のPEDOT:PSS(図3)が有機系熱電変換材料の中で高い熱電特性を示すことが知られています。

図2. フレキシブル基板上PEDOT:PSS薄膜

図3. PEDOT:PSS の構造図
PEDOT:PSSの熱電特性を高める手段として高沸点溶媒などの添加があります。我々はPEDOT:PSSに対する添加材料の探索を行っており、本記事では例として界面活性剤の添加が熱電特性に与える効果について紹介します[1-3]。図4にPEDOT:PSSのZT (T = 300K) の界面活性剤濃度依存性を示します。ZTは界面活性剤濃度に依存し、1wt%程度の濃度にて最大値を取ることがわかります。このZTの向上は主にPEDOT:PSSの導電率が向上したことによります。またX線回折の結果から、界面活性剤の添加がPEDOT:PSSの結晶品質が改善することも明らかとなりました。この結晶品質の改善がPEDOT:PSSの導電率およびZTの向上に結び付いています。

図4. PEDOT:PSSのZTの界面活性剤濃度依存性
参考文献
[1] Enhancement of thermoelectric properties of PEDOT:PSS thin films by addition of anionic surfactants, Naoki Kishi, Yuya Kondo, Hiroki Kunieda, Satoshi Hibi, Yuma Sawada, Journal of Materials Science: Materials in Electronics, 29 (2018) 4030.
[2] Role of anionic surfactant addition in improving thermoelectric properties of PEDOT:PSS free‑standing films, Shafayat Hossain, Yuya Yamamoto, Shogo Baba, Shohei Sakai, Naoki Kishi, Journal of Polymer Research, 31 (2024) 233.
[3] Tuning the mechanical and thermoelectric properties of self-standing stretchable PEDOT:PSS/SDBS films, Shafayat Hossain, Yuya Yamamoto, Naoki Kishi, Journal of Applied Polymer Science, 141 (2024) e55713.