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PEDOT:PSS水分散体の配合 作ってはいけないデナトロンゼリー

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2019/08/21

毎日暑い日が続きますね。
暑い日にはひんやりしたものが食べたくなりますが、今回は食べられないゼリーについてのお話です。

デナトロンは導電性ポリマー「PEDOT:PSS」をベースとした様々な特徴がある導電塗料です。
耐候性、延伸性、高硬度、透明性、密着性・・・など、お客様の使用用途に合わせた機能を付与することができます。
長年培ってきたノウハウと独自の配合技術で、相反する性能もコントロール可能です。

今回はその配合について実験を交えてお話ししたいと思います。

導電性ポリマー「PEDOT:PSS」を配合する際は繊細な作業と技術が必要です。
なぜなら、使用する添加剤や希釈液によって「PEDOT:PSS」の分散が簡単に崩れてしまうからです。
分散が崩れてしまうと、どのような状態になってしまうのか実験してみましょう。
導電性ポリマー「PEDOT:PSS」について

PEDOT:PSS水分散体にそれぞれ違う添加剤を加えて条件①と条件②とします。

なにも加えていないPEDOT:PSS水分散体です。

⇩それぞれ添加剤を加えます。

条件①は一見均一に見えますが、よく見ると粒のような固形物ができていました。
条件②はすぐに凝集し始め、ドロッとした固形物が壁面に張り付いていました。

これを更に40℃で1日置いてみました。

すると、条件①はどろっとしたゲル状になってしまいました。
条件②はゲル化が進み、完全にゼリー状になってしまいました。

なぜゲル化してしまったのでしょうか?

凝集やゲル化が起こる原因の一つとして、分散媒の極性変化があります。

PEDOT:PSSは通常水中においては、疎水性のPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))を囲むようにして親水性のPSS(ポリスチレンスルホン酸)にドープされていることによって、ナノサイズのコロイド粒子として安定して分散されています。しかし、分散媒の極性が変化すると、親水性と疎水性の両方の組成を有するPEDOT:PSSは敏感に応答し、そのコアシェル状の粒子形状が変化して凝集、ゲル化を生じる可能性があります。
また、添加剤がPEDOT:PSSコロイド粒子同士を繋ぐ役割を果たすことで凝集、ゲル化を生じる可能性もあります。
ゲル化の状態を例えるなら、おむつに使われている高吸水性樹脂と同じような網目状の構造をしていると考えられます。


PEDOT:PSSは高吸水性樹脂に使用されている架橋されたポリアクリル酸ナトリウムのように化学的な架橋はしていないものの、PEDOTのπ電子相互作用やPSSのスルホ基を介したイオン架橋によって網目構造が形成されるのではないかと推測されます。

今回は極端な例をご紹介しましたが、添加剤の種類や量が少し違うだけでPEDOT:PSSの分散状態は大きく変わってしまうのです。

たとえば、スクリーン印刷用のインクは粘度を上げてペースト状にしていますが、少しでも調整を間違えるとゲル化してしまいます。
高透明・低抵抗な製品を作るため、スクリーン印刷グレードの「SP-801」は絶妙な粘度・レオロジー調整を行っています。

また、配合直後は良好な性能が出ていても、時間が経つと安定性が悪くなる場合もあります。
そのため、安定性を高めるため最適な配合を行い長期間お使いいただけるような開発を行っております。

おまけ☆彡

配合を間違えたデナトロンです。見事にゼリー状になっています。

あまりにもゼリーになっていたので、盛りつけてみました。
夏にぴったりの涼しげなゼリーになりました。

しびれる?ハート型デナトロンゼリー ~生クリーム風粘土と彩りを添えて~
※食べられません。食べても責任は負いかねます。

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